スペイン・バルセロナで開催されたファーウェイの発表会で新機種の写真を撮る人たち(2020年2月24日、写真:ロイター/アフロ)

(湯之上 隆:技術経営コンサルタント、微細加工研究所所長)

 2020年5月14日は、世界半導体産業の歴史に刻まれる日になる――と直感した。この日に、次の2つの“重大な事件”が明らかになったからだ。

(1)台湾のファウンドリ(半導体受託生産メーカー)TSMCが120億ドルを投じて、12インチウエハで月産2万枚の半導体工場を米アリゾナ州に建設することを発表した。

(2)同日、米商務省が中国のファーウェイ(華為技術)への輸出規制を強化すると発表した。それを受けて、TSMCは2020年9月以降、ファーウェイ向けの新規半導体の出荷を停止する。

 ここ数年、TSMCは、米中ハイテク戦争に揺さぶられ、両大国からの綱引きにあっていた。しかし結局、TSMCは、中国ではなく、米国に付くことにしたわけだ。

 TSMCにとっては、ファーウェイ向けの半導体受託製造ビジネスは全売上高の約15%を占めており、これは最大顧客の米アップルに次ぐ規模である。にもかかわらず、全面的に米国の要請を受け入れたのは、TSMCの売上高の約60%が米国向けだからである(図1)。

図1 TSMCの直近5年間の地域別売上高比率
(出所)TSMCの決算報告書のデータを基に筆者作成