2017年8月、麻薬の運び屋と間違われて警官に射殺された17歳のキアン・デロス・サントスさん。左は、葬儀費用のためのお金を供えにきた少年(写真:ロイター/アフロ)

(PanAsiaNews:大塚智彦)

 フィリピンでは、ドゥテルテ大統領が進める麻薬関連犯罪捜査によって、司法手続きによらない「超法規的殺人」が横行している。そしてその過程で、人違いや巻添えとなって死亡した子どもがこれまでに約100人にも上るという。5月27日、人権団体が公表した報告書の中で指摘した。

 同団体は、こうした麻薬犯罪と直接無関係の子どもの犠牲に関し、国連人権理事会(UNHRC)など国際社会やドゥテルテ政権に対し、子どもの人権保護と、子どもを巻き添えにした捜査に関与した治安当局者への捜査と法による公正な裁き、被害を受けた子どもやその家族への経済的・精神的支援を求めている。

 米ニューヨークに本拠を置く国際的な人権団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)」は27日、『幸せだったぼくの家族はもういない。フィリピン、麻薬戦争に苦しむ子どもたち』と題する48ページの英文報告書を発表。ホームページ上では同じ内容の報告が日本語でもアップされている。

(参考)ヒューマン・ライツ・ウォッチHP
<フィリピン:「麻薬撲滅戦争」に苦しむ子どもたち>
https://www.hrw.org/ja/news/2020/05/27/375156

超法規的殺人には人権侵害の批判も

 ドゥテルテ政権の麻薬捜査はフィリピン国家警察が中心となって麻薬取締関連当局などと共同で進められているが、身分が判然としない私服の捜査員による捜査も多いとされる。さらに、麻薬組織の内紛や対立組織同士の抗争、さらに麻薬犯罪とは直接無関係の犯罪容疑で「逮捕、起訴、裁判」という通常の司法手続きのよらない現場での射殺という超法規的殺人が横行しているといわれている。

 警察は「麻薬犯罪容疑者の逃走、抵抗などによりやむを得ない緊急避難あるいは正当防衛」として現場での射殺を釈明、正当なものとの主張を繰り返している。