日本では強権的に物事を進めるための法整備がなされていないという事情もありますが(憲法に非常事態条項がないなど)、仮に法的に可能だからといって、何かあったときに政府や自治体が強権的、独裁的に方針を決定して強制的に国民を従わせる、という手法をやたらと取ってしまうと、私たちがこれまで作り上げて来た社会が一気に壊れてしまう可能性があります。そうした手法は、本来は民主主義を尊ぶ日本社会とは馴染まないものであるにも関わらず、国民の恐怖心を煽る報道ばかりしていたマスコミは、こぞって、「早く強権的な措置を」という論調で報道をしていました。が、政府はそれには乗っかりませんでした。
結果、政府や自治体も、強制的に国民・市民を従わせる、という手法ではなく、国民みんなで情報を共有してもらいつつ、それぞれに自主的に動いてもらう、という手法をとり、民主主義を守ったのです。
実際、この強制力を伴わない緊急事態宣言によって、日本人は自主的に要請に協力してこの数十日間を過ごしています。海外のニュースで伝えられるような、「封鎖解除デモ」もありませんし、必要最低限の外出をするときにはマスクをし、3密を避けるような行動様式を取っています。強制力を持たない緊急事態宣言は、実は日本の社会のありかたと非常に親和性があったというべきかも知れません。
「まずまず」の成果上げたがこのままでよいわけではない
3つ目に維持したバランスとは、命と経済のバランスです。いわゆる「命も経済も」です。企業や事業者には営業自粛を、国民には「不要不急の外出自粛」、「3密の回避」などを呼びかけ、<命を守る>という面での対策をしました。
その一方で、都市封鎖や、公共交通機関を止めるような要請はしませんでした。鉄道やバス、航空便などがストップさせるロックダウン状態にしてしまうと、経済が完全に干上がっていまいます。今回の営業自粛によって、外食産業やイベント事業などでは売り上げが立たなくなり本当に苦しい状況に追い込まれている方々もいますが、それでも、なんとか、社会全体が窒息しない程度のギリギリの経済活動だけは維持できるようにしていました。
さらに貯蓄好きの国民性を反映してか、もともと日本の会社は、大企業を中心に比較的内部留保が豊富です。この内部留保の厚さについては、少し前までは「日本の企業は資本効率が悪い。中でため込むのではなく、どんどん投資に回して利益を生み出すべきだ」とさんざん批判されていましたが、この「キャッシュ・イズ・キング」の非常事態に際しては、「危機に対する耐久性が高い」とポジティブに評価されるようにもなっています。
そういう条件も揃っていたことから、日本は「命も経済も」というバランスが非常にうまく取れたと言えるのではないでしょうか。