「拙速な経済再開は感染拡大の引き金」
一日も早く米経済を正常な状態に戻したいドナルド・トランプ大統領にとって目の上のたん瘤になってきたのは、米政府対策本部の有力メンバーのアンソニー・ファウチ博士(79、国立アレルギー感染症研究所=NIAID=所長)だ。
同博士は、ロナルド・レーガン第40代大統領から現職に指名されて以来36年間、6代の大統領に仕えてきた感染症対策の第一人者だ。
2008年には米市民としては最高の名誉である自由勲章、2013年にはロベルト・コッホ賞を授与されている。
そのファウチ博士が5月12日の上院厚生教育労働年金委員会の公聴会で「拙速な経済再開は手の付けられない感染拡大の引き金になりかねない」と警告を発したのだ。
各州が相次いで経済再開をしていることに、同博士は「第2波、第3波が起こる可能性」を憂慮していたからだ。
トランプ大統領はこの発言に「受け入れられない発言だ」と烈火のごとく怒った。
トランプ氏は当初からファウチ博士の、政治的配慮を抜きにした科学的根拠に基づく助言が気に入らなかった。一時、ファウチ氏の解任をほのめかしたこともある。
しかし、今回のウイルス対応をめぐっては、これまでHIV対策などで多くの業績を残してきた博士への米世論の信頼度は高い。
最近の世論調査ではファウチ博士の支持率は74%、これに対してトランプ氏の新型ウイルス対応への支持率は44%にとどまっている。
トランプ氏が同博士を解任でもすれば、新型ウイルス対策は大混乱に陥る。さすがのトランプ大統領も解任には踏み切れない。
となれば、トランプ周辺は別の形でファウチ博士に迫る以外にない。