一国の首相がフェイクニュースを発している状態で、ありえない失態だ。政府の専門家会議は5月4日になって、なぜ必要な検査がなされていないのか原因分析と提言を示した。こんな分析は本来、2月の首相会見の前にやっておくべきことだ。ともかく、こんな状態は一日も早く解消しないといけない。

大量のPCR検査をしても医療崩壊しなかったオーストラリアと韓国

「PCR検査をたくさんやると医療崩壊を招く」といった異論が出ることもあるが、これもフェイクだ。たしかにイタリアなどで大量の検査が医療崩壊につながったとの指摘がある。しかし、前掲の表をみても、オーストラリアも韓国も医療崩壊は起きていない。診療・入院体制などを整えないまま無闇に検査を増やせば医療崩壊を招く、というだけのことだ。

 日本でも、2月の感染初期に無闇に検査を増やせば大問題が生じたかもしれないが、今の段階で必要な検査を抑えるべき理由にはならない。

 検査拡大は必要だ。だが、「検査拡大」の意味には注意を要する。a)「医師が必要と判断する検査をすぐできるようにする」のか、b)現在の検査ポリシーの範囲を超えて「希望する人は誰でも検査を受けられるように拡大する」ないし「ともかく検査の数を増やす」のかは、区別して議論しないといけない。

 ところが、メディアなどではしばしば曖昧なままに議論されがちだ。さらに、これを混乱させるのが、本稿前半で紹介した「検査数が異常に少ない」と強調するフェイクニュース。区別が曖昧なまま、いつの間にか後者への誘導がなされやすい。これは危ういことだ。結果として、保健所や医療機関に対し「ともかく検査を受けたい」との問合せや強い要求が数多くなされ、ただでさえ限界状態の現場の機能を低下させかねない。

 フェイクニュースは除去し、事実に基づく議論をしないといけない。これが、より良い政策実行の基盤になる。

(なお、筆者は先月から、問題意識を共有する人たちとともに「情報検証研究所」を立ち上げ、フェイクニュースの検証・除去に取り組んでいる)
https://johokensho.hatenablog.com/entry/2020/04/30/104357