(数多 久遠:小説家・軍事評論家)
フィリピンに日本の防空レーダーが輸出されます(正式調印は5月の見込み)。2014年に日本政府が「防衛装備移転三原則」を策定し、防衛装備の輸出を目指す方針を打ち出して以降、初の本格的輸出となります。
輸出される防空レーダーは、自衛隊が使用している固定式防空レーダー「FPS-3」(3機)と移動式レーダー「TPS-P14」(1機)を改良したものです。共に開発から30年程経過し、自衛隊内ではより新しい装備も配備されていますので、最新ではありません。とはいえ、今でも十分な性能を持っている装備です。
政府は、2014年に「防衛装備移転三原則」を策定し、翌2015年には防衛装備庁を発足させ、政府としても輸出を後押しする態勢をとりました。C-2(輸送機)、P-1(哨戒機)、US-2(救難飛行艇)などの売り込みを行い、すわ輸出かという報道も多々ありましたが、今回に至るまで受注には至っていません。2018年には、今回と同じ固定式防空レーダーFPS-3のタイへの導入で入札に参加しましたが、欧州製に敗れています。また、そうりゅう型潜水艦のオーストラリアに対する商談もありました。ただし、これは現地生産が前提だったので、輸出ではなく技術供与と呼ぶべき案件でしたし、事実上日本側が商談から降りる形となりました。
輸出の態勢を整えてから5年間で、やっと1件という実績であり、投入した労力と比べれば、とても十分な実績とは言えません。民間企業なら、スタートアップが困難であるとはいえ、不採算事業として見切りを付ける可能性が高いでしょう。
以下では、C-2などのようにこれまで売り込み努力を行いながらも売れなかった理由、そして今回、防空レーダーが売れた理由を考えてみたいと思います。キーワードとなるのは“信用”です。さらに、今後の防衛装備輸出の可能性も展望してみます。
日本の装備はなぜ売れなかったのか
政府が売り込みを図っていた装備の中で最も話題になったのは、おそらく輸送機のC-2でしょう。