チェルノブイリ原発4号機を覆う巨大シェルターの正式稼働開始式典に出席したウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領(左)(2019年7月10日、提供:Ukrainian Presidential Press Service/ロイター/アフロ)

(佐藤 けんいち:著述家・経営コンサルタント、ケン・マネジメント代表)

 新型コロナウイルス(COVID-19)によるパンデミックは現在進行中の事態であるが、過去の事例と比較検討すると思考の幅が拡がる。歴史に学べ、というわけである。

 その代表格ともいえるのが、第1次世界大戦の末期、1918年に発生した「スペイン・インフルエンザ」(いわゆる「スペイン風邪」)だ。当時、スペインは交戦国ではなく中立国であったため、比較的正確なデータが公表された。そのことによりスペインの国名が冠せられてしまったが、実際の発生源は米国だとされている。

 日本も含めた全世界に感染が拡大した結果、当時の世界人口の約3割にわたる5億人が感染、最大規模で5000万人が死亡したとされている。膠着化していた世界大戦の集結を早めたとさえ言われるくらいだ。

 さらにさかのぼれば、14世紀から17世紀にかけて欧州と地中海世界を中心に暴れまくった「黒死病」もまた、比較検討する対象として論じられている。「黒死病」については、私もこの連載コラムで取り上げた(参考:「繰り返される中国とイタリアの悲劇的な濃厚接触」)。

 今回は、それとはちょっと違う観点から、過去の巨大事故を比較対象にして、今回のパンデミックが今後に及ぼす影響について考えてみたいと思う。同質の事例を過去にさかのぼるのではなく、異質だが関連性のある事例で比較検討してみるというアプローチである。

「見えない敵」であるウイルスと放射能

「NBC兵器」という概念がある。「N」とはNuclear、「B」はBiological、「C」はChemicalの略である。核兵器、生物兵器、化学兵器のことだ。それぞれ放射能、細菌とウイルス、化学物質を兵器として使用する。この3つには共通点がある。それは、いずれも「目に見えない」ということだ。

 匂いをともなうことのある化学物質はさておき、ウイルスや細菌だけでなく放射能もまた、目に見えず、手で触ることも、匂いを嗅ぐこともできない。ウイルスも放射能も、いわゆる五感で感じることができない点は共通している。

 放射能は線量計で検知して数値で「見える化」できるのに対して、ウイルスは感染して発症するか、検査キットで陽性反応がでない限り「見える化」されない。その意味では、ウイルスは放射能より怖いという側面もある。もちろん、放射能は後遺症が長年にわたって残ることは言うまでもない。