わたしは、この十分がとても好きで、何度か訪れています。あるとき出会った犬の可愛らしさが忘れられずに、1年後に行ったときにこの写真を持って、飼い主さんを探しました。
まだ、若い犬だったので、勝手に「小黒」(シャオヘイ)と呼んでいたのですが、本当の名前を知りたいというのもありました。
写真を見せて、「この犬を知りませんか。この犬に会いたいのですが」と町の人に尋ねても、「こんな黒い犬はいくらでもいる」と、相手にしてもらえませんでした。確かに、台湾には通称「台湾黒犬」といわれる土着の黒い犬がそこかしこにいます。
よく似た犬を連れていた男性とすれ違ったので、写真を見せると、「ああ、この犬なら、この小さい橋を渡って、一つ目を左に曲がったところにいるよ」と教えてくれました。やはり、黒い犬を飼っている人には、細部を見て違いがわかるのですね。
うれしくて足早に向かえば、いました! 見覚えのある顔です。飼い主さんに話を聞くと、「小黒もいい名前だと思うけど、これの名前は、黒金(オーキン)だよ」と、教えてくれました。
あれ? 黒金という名の猫に出会ったこともあるぞ。
「黒金」とはかつて「黒いダイヤモンド」といわれていた石炭のこと。「オーキン」という発音は、台湾独特のいわば方言のようなものだそうです。十分は、侯硐と同じように炭鉱で栄えた村です。炭鉱の遺跡がいまもあります。