実は、低い山の面積がかなり小さくなっているのです。

 つまり、低い山が違う2種類のグラフが存在しているのです。

 その他のレイアウトは完全に同じなので、まったく別の趣旨、意図で作られたものではありません。

 なんでこんな事態が起きているのでしょうか?

人知れず行われている印象操作

 新型コロナウイルス感染症対策本部のその後の資料を見ても、「グラフを訂正した」というアナウンスはありませんでした。ということは、誰かが、どこかの時点で、こっそりと資料を「改変」しているのです。

 特段の説明もない、「出典元から引用・改変」との断り書きもないとなれば、これはやはり大問題なのです。

 おそらく、「2つの山の面積が近いこと」があまりいい印象を与えないから、もっと希望が持てるように改変した、ということでしょう。

「低い山はもともと面積が小さいのだから、それがはっきり分かるようにしただけ。趣旨を変えたわけではない」という反論もあるかもしれません。いずれにしても、悪意があってのことではないと思います。

 しかし、前述したように、面積の差を大きくすることは、医学的にはミスリードの可能性が高い。いくら「希望を」と言っても、ハードルが大きい希望を設定すれば、叶えられなかった時の落胆と挫折感が相応に大きくなるだけです。

 もっと言えば、医学的に正しいか正しくないかの問題でもない。誰かが確かな意図をもって資料を改変し、人知れず私たちへ与える印象を変えようとしていること自体が問題なのです。私は、こういったことを心の底から恐れます。

 おそらく、これと似た事例はそこらへんにたくさん転がっていると思います。ある情報を入手したら、出典元までさかのぼって確認することは、サイエンスを学んだものにとってはイロハのイです。ただし、だれもがそんな面倒なことをするわけではありません。その結果、私たちは、知らず知らずのうちに印象操作されているのかもしれないのです。

 言うまでもなく、新型コロナウイルスをどうするかは全世界にとっての喫緊の課題です。しかし重要だからこそ、目の前の情報の真偽を慎重に吟味しながら、一歩一歩確実に、そして理性的に進んでいくことが大切なのです。

漫画 by 近藤 慎太郎