2017年2月3日、韓国・ソウル駅では、北朝鮮の金元弘・国家保衛相の解任を伝えるニュースが流れていた(写真:AP/アフロ)

(朴 承珉:在ソウルジャーナリスト)

 2017年に、北朝鮮で金正恩委員長の排除を目的としたクーデター計画が存在した。

 このクーデター計画の存在は、2017年5月、北朝鮮の治安組織「国家保衛省(以下、保衛省)」が出した声明で明らかにされていた。声明では、「われわれの最高首脳部」を暗殺しようとするテロリストを保衛省が摘発したという事実と、テロリストの送り込みに米国CIAと韓国の国家情報院が深く関わっていたという見解が述べられ、米韓両国に謝罪を要求していた。

 米CIAと韓国・国家情報院は、ロシア・ハバロフスクに派遣され林業に従事していた北朝鮮人労働者・キム某を思想的に変質、堕落させて買収し、テロリストに変身させたのだという。

 ただ、その暗殺計画の背景については、これまで詳細な情報はなかった。

 今回、その一端が明らかになった。

 自らも脱北者である姜哲煥(カン・チョルファン)北韓戦略センター代表が最近、脱北者の証言を中心に、「朴槿恵政権が弾劾政局に陥っていた頃、北朝鮮の保衛省で、金委員長を除去するためのクーデターグループが構成されていたが、実行直前に情報が漏洩し、失敗した」と述べたのだ。

 つまり、このクーデター計画を首謀したのが、3年前にテログループを摘発したと声明を出した保衛省の人間だったというのだ。そこには高官級を含む15名が関わっていたという。

韓国・朴槿恵政権から協力得られず

 このクーデターグループは、ロシアに派遣されていた北朝鮮労働者を管理する業務を主に担った保衛省要員などで構成されていた。

 同グループは、朴槿恵政権の情報機関とも接触して、クーデターが実行できる兵器など高性能の先端装備の支援を要請した。ところが、韓国当局の支援を受けられなかった。当時、朴槿恵政権は、弾劾政局に入り、同クーデターグループの要請にきちんと対応できなかったかもしれない。

 当時、朴槿恵政権は、北朝鮮との経済協力など南北関係が順調にいかない場合に備え、金正恩政権のレジームチェンジも視野に入れて、2つの方針を並行して追求していた。同クーデターグループは、朴政権がレジームチェンジ政策を取っているのを認識していて要請した可能性が高い。