ジョコ・ウィドド大統領はその後、「今後感染者に関する個人情報は最低限度しか発表しない」との姿勢を明確に示し、その後は性別や年齢などごく限られた感染者情報しか公表しなくなった。しかしそれも感染者がまだ数10人レベルまでのことで、その後急激な感染者数の増加に伴い、最近は感染者に関する年齢も性別も発表されないケースが増えてきた。こうなると今度は、医療関係者の間での情報共有でも情報不足状態となっているという。

 こうした中、医療関係者からは「持病のある高齢者の感染者が多いことが死亡率を高めているのではないか」との推測が出てきた。

 これは保健省や危機対応にあたる対策当局などが感染者、死者に関する詳細な情報共有を怠り、詳細な分析にまで手が回らないことに起因するものではあるが、推測や憶測がネットや口コミで国民の間に広がり、それが疑心暗鬼をかきたてるという状況になっている。

 インドネシアの場合、定期的に健康診断を受けているのは一部富裕層か大手企業の従業員などに限られ、国民の大半は体調を崩して診察を受け、そこで初めて持病や疾患に気が付くことが大半とされる。

 そうした持病――例えば高血圧症や糖尿病、肺疾患を抱える高齢者が新型コロナに感染した場合、症状が重篤化し、死亡に至るケースが多いと見られているのだ。

 繰り返すが保健当局が感染者そして死者の年齢、持病の有無などのデータ分析を明らかにしていないことから、こうした見方はあくまで推測の域を出ていないが、「そういう背景でもない限りこの異常に高い死亡率は説明が難しい」と医療関係者は話している。

政府に今求められていること

 インドネシアでつい最近6人の医療関係者がコロナウイルス感染によって死亡した。3人の医師らは感染者治療の最前線で奮闘し感染して死に至ったとして、ネット上にアップされた3人の顔写真入りの記事には、市民からの感謝の言葉が書き込まれている。

 残る3人も医療関係者だが、こちらは海外渡航から帰国して感染が明らかになった人々で、インドネシアの感染者の多くが海外渡航経験者やクラブなどの娯楽施設に出入りできるいわゆる中間富裕層が多いとの見方を改めて裏付けている。

 こうしたこともあり、保健当局が一切の患者の詳細情報とその分析を公表していないとはいえ、感染者そして死者の中には比較的高齢者そして富裕層が多く含まれ、本人が自覚しているかあるいはしていないかは別として持病を抱えている患者が多いとの見方が強まっている。

 インドネシア政府、そして感染者数が最も多くなっている首都ジャカルタを抱えるジャカルタ州政府は、娯楽施設の閉鎖、公共交通機関の運行制限、在宅ワークの推奨、外出控えの要請など、「緊急対応策」を相次ぎ打ち出している。

 しかしいずれも強制力を持つものではなく、基本的に「求める」「呼びかける」という「お願いベース」でしかない。

 首都中心部の大規模ショッピングモールは、店舗そのものは多くが営業しているものの、客足は激減している状況だ。一方で低所得者層などが住む多くの地区では、市民たちがこれまで通りにマスクも着用せず、買い物、食事を街頭で楽しむ光景が見られる。

 イスラム教の祈祷施設である「モスク」も大規模な集団礼拝は自粛されているが、モスクは立ち入り禁止ではなく、祈祷に訪れるイスラム教徒は個人的に他の人と「安全な間隔」とされる1メートル前後の間隔を保って祈りを捧げている。

 そこに、強制力のない「お願い」の限界が見える。

 モスクでの集団感染が明らかになったマレーシアのクアラルンプールでは、モスク自体を閉鎖して一切立ち入り禁止とした。外出禁止令が出されているフィリピン・ルソン島のカビテ州では、外出禁止令に違反したとして22日から23日にかけて508人が逮捕されたりする事案が発生している。このように各国は厳しい対応で感染拡大阻止に務めている。

 インドネシア政府、保健当局は、異常な死亡率の高さを深刻にとらえ、詳細な分析と追跡調査、追加の検査実施、さらに強制力を伴った数々の緊急対応策などを早急に講じることが求められている。そしてその分析や調査結果として得られた情報を医療関係者はもとより一般国民にも公表して共有することが、今後の感染拡大を食い止めるために重要となる。