「イザナギ」アンテナの製作中の様子。(写真提供:QPS研究所)

 2019年末、日本初の小型SAR衛星初号機「イザナギ」打ち上げ&アンテナ展開成功! 今後36機体制を構築し、天候問わず24時間、世界中を観測して「リアルタイム観測マップ」実現を目指す、QPS研究所×北部九州宇宙クラスター。現場レポート第3回は、卓越した技術力で「イザナギ」成功に大きな貢献を果たす2つの企業を訪ねる。

【第1回】「九州に宇宙産業を、師匠と弟子の衛星開発ベンチャー」
(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/58411)

【第2回】「2号機も続け! 衛星づくりは地場企業と二人三脚で」
(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/58911)

 福岡市天神から北へ。福岡ヤフオクドームあたりから海沿いに西へ30分ほど車を走らせると、九州大学伊都キャンパスが見えてくる。2005年に九州大学が移転する際、福岡市による学術研究都市づくりが進められ、周辺の地場企業との産学連携が活発に行われている地域だ。

 その地域の一角に目指す企業、峰勝鋼機はあった。玄関には高さ1mほどあるだろうか、600kgもある巨大な火力発電用のバネがでんと出迎えてくれた。ここは内径80cmの衛星イザナギが、約4倍もの大きさのアンテナを展開する際の肝となる24本の板バネを製造した企業である。

 同社の林哲志会長は、九州大学が移転してきた直後から、同大名誉教授でQPS研究所の創業者、現在は取締役研究所長である八坂哲雄氏とのモノづくり仲間。「『へんてこりんなものを作ってみろ』と林さんに言えば『やってみる』と答えてくれる」と八坂教授が言う通り、「どうやったら面白いものができるか」互いに切磋琢磨してきたという。

峰勝鋼機の林哲志会長。QPS研究所の八坂研究所長とは長年のモノづくり仲間。

バネを衛星に巻き付ける

 2015年ごろのある日、林会長は八坂所長からこんな相談を受けたことを覚えている。

「林さん、宇宙で小さくたたんだアンテナを開きたいが、バネでいけるだろうか」

 課題は「打ち上げ時はコンパクトに、宇宙で大きく広げられること」「軽くすること」。SAR衛星は、宇宙から地上に高出力電波を送信する。小型衛星が高出力を出すには、大きなアンテナで電波を増幅する必要がある。一般的に、宇宙で衛星のアンテナを開くには、火薬や電動モーターが使われていた。