次に内容だが、「アブダビ国営石油」(ADNOC)に対し、日本国内の原油タンクを貸与し、「ADNOC」は東アジア向け供給拠点として活用するが、同時に「緊急時には日本向けに優先供給する」という、2009年に締結した共同備蓄契約の2回目の延長を行い、さらに貸与原油タンク容量を100万キロリットル(KL)から130万KL(日本国内の石油消費量の約4日分に相当)へ拡大する、となっている。

 つまり、現存のアブダビとの「産油国共同備蓄」を継続・拡充する、ということだ。

 これをもって経産省は、当該報告の冒頭で「危機対応能力の向上に寄与するという重要な意義を持つ」ものとしている。

 はてさて、本当に「危機対応能力の向上」に寄与するものなのだろうか?

「産油国共同備蓄」のカラクリ

 この「産油国共同備蓄」については、新潮社フォーサイト『米「原油禁輸制裁」対抗でイラン・中国「秘密取引」の可能性』(2019年5月8日)の中で紹介しておいた。中国がこっそりイラン原油を購入するのに、この仕組みを使えばできる、と愚考を述べたものだ。

 概略を繰り返せば、「産油国共同備蓄」とは、国家備蓄、民間備蓄に次ぐ「第三の備蓄」という位置づけで、産油国の国営石油に日本国内の石油タンクを貸与する、というものだ。

 産油国国営石油は東アジア向け中継・在庫拠点として使用し、供給危機時には我が国に優先的に供給する、という条件になっているとのことだ。

 今回「継続・拡張」されたUAEの「ADNOC」とのもの以外に、サウジアラビアの国営石油「サウジアラムコ」とも63万KLの契約がある。

 つまり、今回の「延長・拡充」により、約200万KLの「産油国共同備蓄」になる、というわけだ。

 問題なのは、在庫している原油の所有権はそれぞれの外国国営石油に所属しているが、その半量を日本の国家備蓄としてカウントしていることにある。つまり日本は、「国際エネルギー機関」(IEA)が加盟国に課している備蓄義務数量の一部として、この「産油国共同備蓄」の半量をあてている、というわけだ。

 前述した2019年5月8日付拙稿では、

〈大きな問題があるが、本筋ではないので、ここでは触れないでおく〉

 としておいた。だが、今回の安倍首相の海外訪問唯一の具体的成果がこれだとするならば、触れないわけにはいかないだろう。

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