(筆坂 秀世:元参議院議員、政治評論家)
香港の民主化要求は収まらない
「逃亡犯条例」改正案への反発に端を発した香港市民の民主化の要求、反政府デモは、年を明けても収まる気配はない。
「逃亡犯条例」改正案は、香港と中国本土との間で容疑者の引き渡しを可能とするものであり、そうなれば香港市民が中国当局の取り締まり対象になる可能性がある。それは「一国二制度」が根本から覆されるということでもある(「一国二制度」は、1997年に香港が英国から中国に返還された際、50年間は香港の高度な自治、資本主義経済などを認めることにした制度)。香港市民が完全撤廃を求めたのは当然であろう。
香港を対象とする「一国二制度」は、2047年にその期限が切れることになっている。その後の政治体制に関しては白紙であり、中国に飲み込まれてしまう可能性もある。今から27年後なので、現在の大学生が40~50歳代になる時期である。その時期まで中国共産党の一党独裁体制が続いていたなら、という恐怖心が生まれるのも当然と言ってよい。現在の香港にも民主主義があるとは言えないが、自由や自治がさらになくなり、一党独裁政治に組み込まれてしまうのである。
香港市民は、5大要求を掲げて戦っている。(1)逃亡犯条例改正案の完全撤回、(2)デモを「暴動」と認定した香港政府の見解の取り消し、(3)警察の暴力に関する独立調査委員会の設置、(4)拘束・逮捕されたデモ参加者らの釈放、(5)行政長官選や立法会選での普通選挙の実現――である。
「逃亡犯条例改正案」についてだけは、香港行政長官の林鄭月娥(りんてい・げつが)が昨年(2019年)9月に完全撤回を表明したが、市民の要求は5大要求すべての受け入れである。
「香港警察による弾圧」を激励する中国政府
テレビでも何度も生々しく報道されたが、香港警察による抗議行動への強権的な弾圧は恐るべきものだった。警官が至近距離からデモ参加者に実弾まで発砲し、警棒などを使った殴る蹴るの暴行は日常的になっている。また香港立法会の民主派議員だけを狙い撃ちにして7人を逮捕している。そのため最近は、市民が「警察組織の解散」も要求するようになっている。