(福島 香織:ジャーナリスト)
あけましておめでとうございます。2019年は「逢九必乱」の年のジンクス通り、香港を中心に中華圏は大きな「乱」に見舞われた1年だった。おそらく1989年以来、外交上、最も厳しい局面にさらされた年であったといってもいいだろう。
では今年は中国にとってどんな年になるだろうか。香港問題はどうなるのか。今年(2020年)の予測について、ざっくりと大まかに、放談してみたい。
香港に「国家安全条例」を望んでいた習近平
香港問題は少なくとも昨年春の段階ではここまで中国の根底を揺るがす大問題になるとは思わなかっただろう。いったいなぜ、香港問題がここまで拡大したのだろうか。
そもそもの発端は、香港人のカップルの痴情のもつれを原因とする殺人事件が台北で発生したこと。当初は香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官ですら、逃亡犯条例改正などといった選択肢を口にしていなかった。それが1年後の春に突然言い出す。この裏事情については不明だが、比較的はっきりしているのは、習近平周辺はキャリー・ラムに条例を改正せよといった要求はしていない、もらい事故だと主張していることだ。
ではキャリー・ラムからの提案、アイデアであったか。あるいはキャリー・ラムは誰かに、逃亡犯条例を改正すれば習近平の歓心が買えると耳打ちされたか。
いくつか判明しているのは、習近平政権としては香港に「基本法23条に基づく国家安全条例」の制定を望んでいたということだ。胡錦濤政権が挫折した国家安全条例を自分の政権で制定できれば、それは香港掌握を実現できた、という大きな成果である。
だが、この条例こそ、香港の司法の独立を完全に打ち砕き、香港在住の民主活動家や反体制派の人間を香港警察が中国に代わって政治犯として逮捕することができる根拠となる恐ろしい法律なのだ。だから、この法律をつくろうとすると、逃亡犯条例どころではない香港市民の抵抗運動が予想される。なので、キャリー・ラムは、国家安全条例制定を先延ばしにする口実として、先に成立が簡単そうな逃亡犯条例改正を行ってみせようとした。あるいは、そうすることが習近平の意思であるかのようなアドバイスを受けたかもしれない。