筆者は阪神・淡路大震災時の陸上幕僚長であり、現在は公益社団法人・隊友会の理事長である。それゆえ、福島原発事故を含む東日本大震災への政府・防衛省・自衛隊の動きについては、特に強い関心を持って見てきた。

 それだけに「過早に軽率なことは言えない」と、これまで意見発表などを控えてきた。

 しかしそれとは別に、ある大学で「危機管理」講座を担当している一教員としての立場から、特定政党や自衛隊とは直接関わらない範囲内で「危機管理」における「組織トップ」のあり方を述べることは、多分許されるだろうと考え、以下に記すこととした。

1. 危機管理とは

 危機管理とは、2つの段階からなる。平時から 危機を予測し、危機発生を予防し、危機発生を警戒しつつ発生した場合の対応を準備することがまず第1点。

 そして、危機、すなわち非常事態(有事)発生と同時に、準備した計画に基づき、あるいは臨機に対応して、危機を収め復興をするのが2点目である。危機管理とは、あらゆる組織にとって、この2つの段階を通して「生き残る」のための一連の行動と言える。

 1点目の平時の準備と2点目の危機発生後の対処行動ではどちらが重要なのか、については軽重を論ずるのは難しい。その両方が大事ということになる。

 例えば自衛隊は平時の準備として、組織・装備・行動計画を整えて危機を抑止しつつ、危機に直面した場合の準備(警戒・情報・訓練を含む)をし、危機に直面したらその訓練成果を現実の警戒・情報・PKO(平和維持活動)・災害派遣など各種行動に移している。

 そして、その訓練・行動がまた危機発生の抑止につながると信じ、その両者に軽重をつけずに努力しているのである。

危機の際の準備しかできない公務員

 災害対策基本法によれば、災害対処の計画・実行の責任は国および各地方自治体にあることになっている。

 国および地方自治体にはそれぞれ警察・消防の人たちがおり、彼らは上記自衛隊と同様に準備し行動していると思われる。

 しかし現実には、警察・消防を除く国家・地方公務員の人たちは危機に直面した際の対応計画作成まではやるが、対処行動実行までは、あまり考えていない。

 そして、この計画と実行の中間に存在する訓練を年に1回程度実施するが、それは実践(戦)的訓練とはほど遠いものであることが多い。つまり、彼らにとっての危機管理とは準備だけなのである。