そして安藤氏は、多くの経営者の「識学と出合わなければうちは潰れていた」「識学と出合ってから利益が倍増した」といった口コミに支えられ、ついに上場も果たしている。

 筆者が、義務教育の現場にも「識学」の考え方が必要ですよね? と話を振ると、安藤氏は「そうなんです」とこんな話をする。

「だから私は、焦っているんです。学校が、大企業が、正しい動機で動く組織になれば、日本は今後も発展していくはず。だから今は、どうか、大きい企業の経営者こそ識学を知ってほしいんです」

 識学なき未来と、識学がある未来の差が見えた、だから安藤氏は動いたのだ。

「なかよしこよし」では組織が発展しない

 最後に蛇足を加えたい。筆者は最初に識学を知った時、若干、冷たい組織論なのではないかと感じた。

 しかし、仮に上司と部下が感情的につながったら何が起こるか。誰とでも平等に感情的繋がりを持てる上司はいない。そのため一部の部下は「あの人たちの仲がいいから自分は評価されない」とモチベーションを失っていくだろう。

 結果を出さずとも「頑張っている」いう理由で部下を誉める上司がいたらどうなるか。部下は「頑張ればいい、いや、頑張る姿勢を見せておけばよいのだ」と誤解する。これは部下のためにもならない。

 家族でも、友人関係でも、組織でも、その集団が目指すべき状態があり、これを実現するため各人が責任を果たさなければならない。ただし、その責任は集団によって異なる。仮に友人関係であれば、皆が居心地よく過ごせる振る舞いをしていればよいのかもしれない。しかし、企業組織においてはそういうわけにはいかない。そして人は、この違いを理解せず、居心地の良さを企業組織に持ち込もうとして間違えるのだ。

 識学は冷たいのではない。むしろ今は日本全体が、組織の発展より「なかよしこよし」を大切にする風土があって、そちらのほうがよほどおかしいのだ。安藤氏が鳴らす警鐘の意義は大きい。

◎取材/福田宗就(IZUMO)、文/夏目幸明(IZUMO)

【福田の視点】
 現在、世にまかり通っている組織論やモチベーション理論が当然と思っていた中、タレントの要潤氏を起用した識学のタクシー広告を見た。衝撃的な回答だった。人事コンサルの会社の理論とは正反対だったのだ。上司と部下が仲良しこよしの会社では利益も出ないし成長もしない、組織に人の感情を入れずに統制管理することが重要である、それは新たな気付きだった。今まで常識や当たり前であったことを否定してみる、疑問を持つこともまたビジネスを生み出すヒントかもしれない。