そう「識学」とは、人はどのような生き物なのかを深く掘り下げ、理想の組織をつくっていく学問なのだ。

組織は結果を出すために存在する

 では、安藤氏は、どんな未来が見えていて、この「識学」を元に起業をしたのか。聞けば根底に、現在の社会はモチベーションの設計が間違っている、という問題意識があった。

「管理は自分でするもの、夢と希望があれば自己管理できる、といった雰囲気がありますが、それができないのが人間なんです。プロ野球選手の中には太ったり自己節制ができない人がいますが、夢と希望だけで自己管理ができるならそんな選手は出てこないはずです。報酬や夢で自己管理ができないから難しいのです」

 やりたい環境と同時に、やらなくてはいけない環境も創り出す必要があるのだ。そう考えると、現代のマネジメントは間違いだらけだった。

「例えば稲盛さんは偉大な経営者ですが、稲盛さんがよく言う“社員と飲み明かせ”というのは稲盛さんの会社だからできることなんです。すでに出来上がっている組織ならそれでいいんです。これを、部下が10人くらいの上司と社員の間で行ったら、属人的な組織になってしまいます。上司が好きで部下が動く組織は、その上司がいなくなれば崩壊します。感情で動く組織はロスが発生します。上司が好きで動く部下は、気が合わない上司が来たら“あの人は前の○○さんと違う”と動かなくなります。社長が好きで働いてます! という笑顔は眩しく見えますが、それはすなわち、別の社長が来たら働きません、という宣言と同じなんです」

 さらに、いわゆる“理解がある上司”像も間違っているという。

「失敗したときに、“俺も失敗したよ”と同情してくれる上司と、失敗の原因を究明し、次回は失敗しないよう教えてくれる上司はどちらがいいですか?

 “俺も失敗したよ”と言うのは、優しく見えて利益を生み出さないことを肯定している面があります。自分が嫌われたくないからと、何もしていない部下に報酬を与えていては、部下は成長しません。部下が失敗しないように正しい方法を伝え、成長させ、部下に何かを成し遂げさせる方が、よい上司なのです」

 しかし放っておくと、人が動かない組織ができる。その危機感が、安藤氏を動かしたのだ。

「世の中のビジネス書の中には、害悪としか思えないものがたくさんあります。理解がある上司、優しい上司を演じる人物を肯定するようなものがたくさんあるんです。そんなことは間違ってます。日々のルールを設定し、管理方法を変更し、成果を挙げなければ会社の中で存在意義を失い、給与も下がる仕組みこそが必要なんです。結果を出さなくても認められるなら結果を出そうとするはずがありません。しかし、大手の銀行など日本を代表する組織が、今まさに逆に行こうとしているんですよ」

 そんな社会の矛盾が、安藤氏に起業へと向かわせたといっていい。