「虐待」か「病気」か? 真っ二つに割れた争点
「私は娘の自宅で少しの間留守番をし、孫はすやすやとお昼寝していただけです。今の私にとって、孫たちは生きがいです。どうして虐待などできるでしょうか・・・」
逮捕時から、山内さんは一貫してそう主張してきました。
しかし、一審の大阪地裁(飯島健太郎裁判長)は、検察側証人である小児科・M医師の証言に基づき、「1秒間に3往復の大人が全力で揺さぶる程度の暴行があった」と、犯行の状況を具体的に認定。そのうえで、「それができたのは、赤ちゃんの容態が急変する直前に一緒にいた祖母だけ」であり、「偶発的・突発的に及んだ事案である」として、2017年10月、懲役5年6か月の実刑という厳しい判決を下しました。
この判決に納得できなかった山内さんは即日控訴。
二審から「SBS検証プロジェクト」の弁護団に刑事弁護を依頼し、新たに複数の脳神経外科医に協力を求めたのです。
脳のCT画像を誤読していた検察側の小児科医
高裁では、複数の医師に対する証人尋問が行われました。そして、この段階にきてこの事件の大前提を揺るがす、重大な事実が浮上します。
脳の専門家である脳神経外科医が、
「CTの画像を見る限り、赤ちゃんの脳には急性硬膜下血腫は見られない」
という意見を述べたのです。
そのうえで、
「脳の中で起こった出血は、揺さぶりのような外力によるものではなく、内因性のもの。脳静脈洞血栓症という脳の病気だった可能性が高い」
という見解が示されました。
つまり、一審で有罪の根拠となった「乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)の3兆候」のうちのひとつである「急性硬膜下血腫」が、そもそも存在しなかった、ということになるのです。
日ごろから脳の手術を行い、多くの脳外傷の症例を見ている脳神経外科医の証言は傍聴席で聞いていても具体的で、経験に裏打ちされたものでした。