バッターがどう感じるかがすべて

 ただ、この「数字ではない」ことは軽視されている傾向にあると思う(というより、数字が重視されすぎている、と言えるのかもしれない)。

 ピッチャーにおける数字は球速以外にもあって、球種もそのひとつだ。何種類もの球種があることは、確かにピッチャーにとってアドバンテージだと思う。しかし、だからと言って勝てるわけではない(僕の球種が基本的にストレートとフォークの2種類だったことは書いてきたとおりだ)。

 幸か不幸か「数字(球速や球種)」で勝負できなかった僕は、バッターがどう感じるか、ということを常に想像しながらピッチングをしていた。「相手(=バッター)」の存在こそが大事だったわけだ。

 つまり、いくらスピード表示が速くとも、「相手」がそれを感じていなかったら意味がないし、何種類も球種があっても「相手」にわかっていれば意味がない。鋭く曲がる変化球、それも「相手」がそう思わなければ、役に立たない。

 数字にとらわれると、こうした「相手」がおろそかになっていく。みんなが数字を目指すようになり、同じようなタイプの選手が増えていってしまう。

「相手=バッター」がどう感じるか。

上原浩治・著「OVER 結果と向き合う勇気」

 僕の長所として言われたテンポが速いことも、メンタルも同じだ。「相手」が打ちやすいテンポであれば、それはストロングポイントにならないし、メンタルで負けてたまるかと思って投げた球がただ力んでいるだけでは駄目だ。

 相手にとって打ちにくいテンポ。それが僕の場合、人より速かった。

 絶対に打たれてたまるかというメンタリティ。相手に勝つために必要な勇気としてそれが必要だった。

 バッターがいて、ピッチャーがいる。

 この視点があれば、数字で勝負できない選手たちもまだまだ伸びしろがあると思っている。
(「OVER」上原浩治・著より再構成)