写真:杉田裕一

 今シーズン、ジャイアンツで約21年にわたる現役生活を終えた上原浩治。数々の記憶に残るピッチングと、「雑草魂」と呼ばれた生き方は多くのファンの心を打った。
 特筆すべきはMAX89マイル(143キロ)と言われた直球で、日米の強打者をなぎ倒してきたことだ。なぜ「速くないストレート」で勝てたのか?
上原浩治の引退までを綴った新刊『OVER 結果と向き合う勇気』より紹介する。

数字で勝負しない、という方法

 ピッチングにおいて数字はどのくらい重要だろうか。

 第1章で引退までを振り返ったとき、何度も「球速」について書いた(注)。くどかったかもしれないが、僕自身の野球人生で、そのくらい「球速」について考えることは多かった。

 球速で勝負しない。

 それが僕のスタイルだったのだ。

 メジャーでも僕のストレートは「遅い」と指摘され続け、ついにはなぜあんなに遅いのに打たれないのか? ということが話題になったりもした。

 その理由をデータ的に解析した記事なども目にしたことがあるが、実際のところ僕が意識していたのは、「球速で勝負はしないけど、バッターに速いと感じさせる」ということだった。

 その点で言えば、引退を決めた最後の年は、スピードガンだけではなく、バッターに速いと感じさせることができていなかったから、「スピードがない」という指摘は、当然だったといまになって思える。140キロくらいは出たかな、と思ったら135キロしか出ていない、ということが何度もあっただけでなく、初めて対戦するバッターにいとも簡単に打ち返された。それはつまり、バッターが僕のボールを脅威と感じていない証拠だった。
(注:2019年シーズン、球速アップを指摘され葛藤した日々を本書のなかで綴っている)