指導者は教えるべきなのか。教えないべきなのか。スポーツの現場に限らず指摘されるテーマである。

 プロ野球の世界ではどうなのか。北海道日本ハムファイターズの指揮官として7年、2度のリーグ制覇、1度の日本一、そしてクライマックス・シリーズに5度出場した栗山英樹監督の書籍『稚心を去る 一流とそれ以外の差はどこにあるのか』から考える。

広岡達朗さんと落合博満さんの違いはどこか

 監督1年目、外野守備走塁コーチとしてチームを支えてくれた清水雅治コーチの言葉が忘れられない。

「コーチは自分がやりたいことをやるんじゃない。監督がやりたいことを実現させるのがコーチの仕事だ」

 直接ではなかったが、それを伝え聞いたときには、身の引き締まる思いがした。

 それ以降も、たくさんのコーチのお世話になってきたが、感謝とともに、その仕事についていろいろなことを考えさせられてきた。

 コーチの仕事に対してできあがりつつある一つのイメージは「技術屋さん」。技術のプロフェッショナルであるコーチには、選手と一緒により高い技術を求め、一緒に探していってほしい。どうして打てないんだろう? もっといいアプローチがあるんじゃないか? こうしたらいいんじゃないか? ああしたらいいんじゃないか?

 そうやって、できるだけたくさんの選択肢を提示してもらって、あとは選手に選んでもらう、それが理想だ。

 もちろん監督もその手伝いはするし、コーチと技術的なことを話したりもするが、こっちにできるのは、メンタル面のケアだったり、それを引き出すための起用だったりする。

 そこは明確に分けて、役割分担をしているつもりだ。

 さて、そこで、もっと根本的な考え方として、コーチは選手に「教える」べきか否か、という点だ。

 広岡達朗さんは、「教えるべきだ」と言う。
 落合博満さんは、「教えるのではなく、一緒に見つけることだ」と言っている。