「稚心を去る」栗山英樹・著

 これは、どちらの考え方にも賛同できる。

 広岡さんは、球史に残る名ショートだ。守りは、たしかに教わるとうまくなる。本当にうまい人に教わりながら、徹底的に数をこなしていくと成果が現れるケースが多い。考えてみると、9割8分は成功するのが守備。ということは、論理的に正しい形があると考えたほうが筋は通りやすい。

 一方、打つほうは、教わるとかえって打てなくなることがある。打ち方が理にかなったものに近づいたことで、無駄な間がなくなって、タイミングがずれたりする。だから落合さんは、「正しいことを教えるんじゃなくて、一緒に見つけることだ」と言っている。さすがだな、と思う。

 確率で言えば、守備と違って4割打てるバッターはまずいない。ほぼ確実に6割以上は失敗するということだ。ということは、絶対的に正しい論理など存在しないのではないか、そう考えたくなってしまう。

 あのホークスの柳田だって、理想的な打ち方をしているかと言えば、決してそんなことはない。タイミングを取って、ただ遠くに飛ばしたいと思って思いっ切り振っていたら、自然とバットの軌道が良くなっていた、そんな印象を受ける。それでいいんだと思う。(『稚心を去る』栗山英樹・著)