台風19号の影響で氾濫した多摩川(2019年10月13日、写真:ロイター/アフロ)

(池田 信夫:経済学者、アゴラ研究所代表取締役所長)

 台風19号は首都圏を直撃し、17日現在で死者・行方不明は86人、堤防の決壊は111カ所、住宅の浸水は3万3000棟に上っている(NHK調べ)。こういう水害が出るたびに「地球温暖化で大型の台風が増えた」とか「水害を減らすために温暖化対策が必要だ」という人がいるが、本当だろうか。

水害の犠牲者は減ったが被害額は減っていない

 結論からいうと、台風は増えていない。水害の犠牲者は大きく減ったが、住宅などの被害は減っていない。次の図のように、日本の水害がピークに達したのは1950年代だった。1959年には伊勢湾台風で、5000人以上が死亡した。

洪水の犠牲者(右軸)と経済的損失(沖大幹氏の推計)

 その後も1960年代には年間数百人の死者が出たが、1980年代以降は大きく減った。これは台風が減ったからではなく、台風情報が正確になったからだ。伊勢湾台風のころは気象台にレーダーもなく、台風情報が出せなかった。

 その後は台風情報で避難するようになったので、死者は減ったが、被害額はあまり減っていない。それは人口の都市集中が進んだからだ。いくら台風情報の精度が上がっても、人間は避難できるが、住宅は逃げられないのだ。

 台風の発生を減らすことはできない。日本の熱帯低気圧の発生頻度はほぼランダムであり、最大値は1960年代に記録している。これは地球温暖化とは無関係である。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は2011年の報告書で、熱帯低気圧(台風や集中豪雨)は「地球温暖化によって増えたとはいえない」という結論を出している。