「エビに優しい」養殖技術、日本から世界へ

世界を渡り歩くグローバル食材、エビ(後篇)

2019.10.18(Fri)漆原 次郎

 プロジェクトでは国際農研のほか、IMTエンジニアリング(新潟県妙高市)、水産研究・教育機構の増養殖研究所、ヒガシマル(鹿児島県日置市)が共同研究を進め、実証プラントでは、最終生存率58.9%、生産密度9.43kg/m^3という高効率な生産性を実現した。2007年より新潟県妙高市で商業運転が開始され、現在も「妙高ゆきエビ」のブランドで販売されている。海外でも、このシステムで試験的な養殖が取り組まれている。

 プロジェクトを率いてきた国際農研のマーシー・N・ワイルダー氏は、「ほぼ淡水といえるほどの低塩分で養殖できるため、排水を下水で処理することが可能。コスト抑制を実現できました。特定病原菌をもたないエビの養殖技術を確立できた点も大きなプロジェクトの成果です」と話す。

成熟を促す「眼の切除」には課題も

 このような成果を上げてきた国際農研が、現在エビの養殖関連技術で取り組んでいるのが、「エビが成熟するしくみを解明し、高度な種苗生産・養殖技術を開発すること」だ。

 メスの親エビのもつ卵を人為的に成熟させられれば、産卵を促すことができる。産卵がどんどん進めば、種苗である稚エビを安定供給できるようになる。では、どうすればよいか。

 これまで、世界的に需要のあるクルマエビ科の養殖では「眼柄切除」とよばれる方法がとられてきた。エビの眼の部分を切って除いてしまうのだ。

 眼の裏側には「サイナス腺」、それに「X-器官」とよばれる器官があり、ここから「卵黄形成抑制ホルモン」という物質が放出され、それにより卵の成熟が抑制される。そこで、これらの器官を根こそぎ切除してしまうことで「抑制」をさせなくすれば、エビの卵成熟が進むことになる。これが眼柄切除だ。

(左)マーシー・N・ワイルダー氏。国際農林水産業研究センター水産領域主任研究員。東京大学農学生命科学研究科農学国際専攻教授を兼務。博士(農学)。1985年のつくば科学万博で演奏のため来日して以来、日本に興味をもつ。1987年、ハーバード大学理学部化学科卒業後、東京大学大学院農学系研究科水産専攻に留学。修士課程、博士課程を修了。日本学術振興会特別奨励研究員(東京大学農学部)を経て、1994年に国際農研へ。研究員を経て、1999年より現職。専門分野は甲殻類生理学、水産養殖学。(右)姜奉廷(カン・ボンチョン)氏。国際農林水産業研究センター水産領域研究員。博士(理学)。韓国・東義大學校、同大学院で生物学を専攻。2008年、岡山大学大学院理学部自然科学研究科生命分子科学専攻博士後期課程を修了、博士号を取得。その後、博士研究員(岡山大学)を経て、2009年に国際農研へ。博士研究員を経て、2015年より現職。専門分野は甲殻類生理学。
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