(福島 香織:ジャーナリスト)
9月10、アリババ創始者で会長だった馬雲(ジャック・マー)が予告どおり引退し、アリババ経営から完全に離れた。ちょうど55歳の誕生日であり、その前後には、中国メディアが彼の功績や評伝を書き立てた。また浙江省杭州から「功勲杭州人」という栄誉ある称号を送られたなど、ポジティブニュースとしてその引退が報じられている。
だが、その10日後、杭州政府が100人の官僚を「政務事務代表」として、アリババやAI監視カメラメーカーのハイクビジョン(海康威視)、民族自動車企業の吉利など100の重点民営企業内に駐在させると発表した。口の悪いネット民たちは「地主を追い出して田畑を接収しようとしている」と噂した。
その後、IT企業、テンセント(騰訊)創始者の馬化騰やレノボ(聯想集団)創始者の柳伝志が、馬雲のあとを追うように次々とビジネスの現場から去ることがあきらかになった。こうした“早期退職”は決して早々とセカンドライフを楽しみたいから、といった理由からではなさそうだ。民営企業からカリスマ創始者たちを追い出し、政府官僚による直接支配が始まりつつある。中国民営企業の大手術が始まっているのだ。
だが、この大手術、失敗するのではないか。「中国経済のICU(集中治療室)入り」と言う人もいる。ICUに入ったまま脳死する可能性もあるかもしれない中国民営経済の危機的状況について、まとめておきたい。
テンセント、レノボの代表も退く
テンセントの創始者で董事会主席、CEOの馬化騰は9月19日、テンセントの子会社で個人信用情報などを扱う騰訊征信の法定代表職から外れることになった。経営上の問題ではなく、社内の事情によるという。もちろん全面的な退職ではないが、馬雲引退の直後だけに、中共政治のサインと受け取られた。芝麻信用で知られるアントフィナンシャルの会長・井賢棟もこのタイミングで引退を表明した。
続いてレノボ会長の柳伝志も聯想ホールディングス(天津)の法定代表、役員の職を辞任した。柳伝志は17企業の法定代表、7企業の株主、8企業の役員を務めていたが、そうした役職も大部分が取り消されたという。聯想側は、子会社については随時業務の進行に合わせて、調整、整理しており、今回の人事などは企業としての正常な業務措置だという。