香港政府が「逃亡犯条例」改正案を撤回したがデモは続き混乱は収まらない(2019年9月15日、写真:ロイター/アフロ)

 香港の民主化運動は、香港政府が「逃亡犯条例」の正式撤回を表明した後も収束する気配を見せていない。米議会に対して人権法案の可決を求めるデモ行進が行われており、米国の出方に注目が集まっている。

 だがトランプ米大統領は、香港のデモ隊について、当初は「暴徒」と呼ぶなど、人権問題に対する関心は薄く、あくまでも中国との交渉材料としてしか捉えていない。今回の問題がどう落ち着くのかはまだ分からないが、香港の民主化を取り巻く一連の状況は、米国はもはやアジアをリードする立場ではないことを明確に物語っている。(加谷 珪一:経済評論家)

折り返し地点を迎える香港の自治

 今回の香港民主化デモは、香港から中国本土に犯罪者を移送できるようにする「逃亡犯条例」の改正をきっかけとして発生したが、デモが収束する兆しを見せないことから、香港政府トップの林鄭月娥(りんてい・げつが、キャリー・ラム)行政長官は2019年9月4日、逃亡犯条例改正案の完全撤回を表明した。しかしデモは一向に沈静化せず、今度は、米議会に対して人権法案の可決を求める運動が行われており、着地点が見いだせない状況となっている。

 香港は、英国から中国に返還された1997年以降、香港の憲法とも言える「香港特別行政区基本法」(いわゆる香港基本法)によって運営されてきた。同法には中国における一国二制度の原則のもと、中国本土にはない自治権などが規定されている。

 もっとも香港の行政長官選挙は、完全に民主的なものではなく、中国側の事前承認を得た候補者を選挙委員会の投票で選出する仕組みになっている。選挙委員会のほとんどは親中派が占めていることから、民主派は事実上、行政長官になれない状況が続いてきた。香港の議会にあたる立法会にも一部、民主派が議席を確保しているが、民主派議員の活動は、メディアでの扱いも制限されており、現実的に民主主義が機能しているとは言えない。