日本企業は世界のベンチャーと連携せよ
牧野に今まで実現したアイデアは何かを聞くと、彼は夢中で話し始めた。
「例えばこの『スマートマット』で買い物は激変します。オフィスなら紙や水、家庭ならお米や洗剤をこの上に置いておきます。そして重量が減ってくると、マットが“なくなってきたな”と判断し、最安値を提示しているネットショップを選んで自動で発注してくれるんです」(冒頭の写真)
さらには「スマートなIoTシューズ」。
「ソール部分にセンサーモジュールを埋め込み、脚の動きを分析する靴です。例えばランニングをしている時に脚がどう動いているか詳細なセンサリングができ、フォームの改善ができます」
従来なら専門的な設備を必要としていた詳細な分析が、靴を履くだけで可能になる。例えば長距離・短距離走やサッカーで、「理想的な脚の動き」と「ユーザーの脚の動き」を比較すれば、上達が容易になるかもしれない。
といっても、「スマートマット」も「ORPHE」も、開発の主体は牧野氏のMBCではない。スマートマットは「スマートショッピング」(東京都品川区)、ORPHEは「no new folk studio」(東京都渋谷区)という会社が開発し、販売する製品だ。
牧野氏はアイデアを持つスタートアップに「試作のためのコンサルティング」「資金調達の支援」「試作・量産化の支援」「サプライネットワークの提供」を行う。あくまでも支援に徹し、実際に“ものづくり”を行うわけではない。
それには理由があった。そもそもの起業のきっかけに遡ろう。
「ベンチャーキャピタルに勤務していた時、シリコンバレーで興味深い企業と出会ってもベンチャーキャピタルとしての競合も多く、投資させてもらうことは困難でした。その理由は自分たちの差別化、ブランディング、つまりベンチャーに選んでもらえる理由が必要でした」
ベンチャーキャピタルは、お金を出すだけでなく、時に顧客や提携先を紹介するなど様々な支援を行う。しかし「お金以外の何を提供できるの?」という部分が弱かった。しかし彼は2010年頃、この業界の問題――起業の可能性を感じ取った。