ところが2018年、呉小暉が汚職容疑で逮捕され、同社は中国政府の管理下に置かれて国営企業になった。米国では、中国政府が当初から目論んだ筋書通りに運んだ結果だとみる向きが多い。いわば米国の心臓部に中国が食い込んだ形である。
現在の改装計画では、ホテルの大半をコンドミニアムに作り変えるというもので、買収当初からの予定だとされているが、長期的なホテル経営で収益を上げるよりも、コンドミニアムとして一度に販売して、速やかに投資資金を回収しようとする中国式「ヒット・エンド・ラン」の発想だ。歴史的に政情不安がつきまとう中国では、未来は予測不能だから、儲けられるときに儲けようという強い危機意識の表れでもある。それに加えて、米国の投資銀行の大方の見方は、折からの米中貿易戦争でいよいよ外貨不足に陥った中国が、あちらこちらから急いで外資をかき集めている表れではないかと分析する。
米中激突で近づく「第三次世界大戦」
ニューヨークのエコノミストのひとりは、米中貿易戦争が新たなフェーズに入ったとして、強い危機感を募らせる。関税引き上げ競争に加えて、為替競争という通貨戦争が始まったからだ。
「第一次世界大戦を思い出してください。当時、敗戦国のドイツ、ポーランドに対して、戦勝国は過剰な戦争賠償金を課した。その一方、戦勝国側でも、それまで世界に君臨してきた『パクス・ブリタニカ』が衰退して、米国が台頭してきた。しかし、『パクス・アメリカーナ』は順調に進まず、そうこうするうち1929年のニューヨーク発の金融大恐慌が起こった。米国は金平価の切り下げを行って輸出攻勢に出た。その結果、世界の国々は通貨切り下げ競争に走り、とりわけ為替圧力を受けた敗戦国・ドイツでは不満が一挙に爆発してヒットラーを生み出し、第二次世界大戦に突入したのです」
「現在は同じ構図になっています。トランプ政権のしかけた米中貿易戦争は、世界のIT覇権をかけた熾烈な競争ですが、米国がしかけた経済制裁で、関税引き上げには同じ関税引き上げで対抗してきた中国が、先日、人民元安へかじを切ったことです。これに対して、米国は中国を『為替操作国』に指定してブラックリストに載せました。
追い込まれた中国の次の一手はなんでしょうか。外貨準備高の60%以上を占める米国国債を売ること以外に、打つ手はないでしょう。しかしこれは『両刃の剣』なのです。短期国債ならまだしも、長期国債を売り払えば、両国に深刻なインフレをもたらし、世界経済に大きなダメージを与えることにも繋がります。第三次世界大戦の入り口に一歩近づいたと言っても大げさではありません」
「貿易戦争」に「通貨戦争」が加わった結果、米中対立はさらに緊縛の度を増し、もはや予断を許さない段階になったというのである。