大災害が起こると多くの人が亡くなります。その際、死因は災害と関連する直接的な理由だけではありません。
病気を抱える高齢者が避難による環境の変化やストレスで体調を崩し、また医療機関が閉鎖されるため適切な治療を受けることができず、糖尿病や高血圧などの持病が悪化することもあります。
私が所属するNPO法人医療ガバナンス研究所は、東日本大震災以降、福島県の医療支援を継続していますが、被災地ではがん患者の治療が中断し、あるいは治療開始が遅れて、不利益を蒙ったことが少なくありません。
これは日本に限った話ではありません。海外でも同じようなことが報告されています。しかしながら、報告の多くは高所得国のもので、中低所得国については十分な情報がありません。
少し古くなりますが、2015年4月25日にネパールで起こった大地震で、がん治療がどのような影響を受けたかご紹介しましょう。
この報告は、今年6月、英医学誌『BMJ Open』に掲載された論文の概要を紹介したものです(http://bmjopen.bmj.com/cgi/content/full/bmjopen-2018-026746)。
ネパール大震災
まず、ネパール大震災の概要についてご紹介しましょう。2015年4月25日、ネパールのゴルカ地方中心部(図1赤×)においてマグニチュード7.8の地震が発生しました。さらに5月12日にはドラカ地方(図1黒×)でマグニチュード6以上の余震が続きました。
2015年までに約9000人が死亡し、2万人が負傷、200万人が避難しました。さらに、地震で倒壊した医療保健機関は約1000に上り、多数の病院やクリニックが閉鎖を余儀なくされました。診療を継続できた医療機関はわずかでした。
今回の地震で首都のカトマンズを含む周辺一帯東西150キロ、南北120キロに及ぶ断層が、最大で4.1メートル以上ずれたと報告されています。
ネパールは地震大国です。インドプレートがユーラシアプレートに衝突して沈み込んでヒマラヤ山脈を形成しています。現在も年間に約5ミリほどの速度で隆起し続けています。このため、世界で地震活動が最も活発な地域の一つとされています。
地震に慣れたネパール人といえども、今回の地震は想像を超えていたようです。友人のネパール人は「みんな驚いたと言っている」と言います。
ただ、「お爺ちゃんや曾お爺ちゃんのときにも大きな地震があったらしい」と言います。それは1934年マグニチュード8.1の地震のことを指します。
この地震から81年間、ネパールでは大地震はありませんでした。地震に弱いレンガ造りの建物が多く、今回の地震では甚大な被害を蒙りました。