(文:医療ガバナンス学会)
6月3日、今年の「ラマダーン」が終わった。ラマダーンは、イスラーム教の断食を行う月として知られており、今年は5月5日から6月3日までであった。よく知られているように、ラマダーン期間中は日の出から日の入りにかけて飲食をせず、人によっては唾液すら飲み込まない。
ラマダーン期間中は宗教的に厳正な暮らしを送ることになっており、飲食だけでなく、喧嘩や悪口、喫煙や性欲を抱くこと(あくまで日中に限る)に至るまで禁止されている。
日本に留学しているイスラーム教徒のバングラデシュ人大学院生は、普段なら牛肉を抵抗なく食べていたが、ラマダーン中だけは「ハラール」と呼ばれる、宗教的な手続きを経た上で処理された肉を食べたいそうで、その入手に腐心していた。また、「肌の露出が多い日本人女性が目に入らないように苦労している」と、打ち明けてくれた。
このラマダーン中の断食が、健康に与える影響について紹介したい。
低血糖のリスクが上がる
意外にも、ラマダーンの断食が健康に与える影響は、あまり明らかになっていない。おそらく、日没後にとる行動の自由度が高く、多様だからであろう。ラマダーン中は日没後にたくさん食べるから太る、という記事を日本語ではよくみるが、過去の研究からは必ずしもラマダーン後に太るわけではなく、「体重が減る人もいるが、全体でみると変わらない程度」である。
また、これまでの各種報告をみると、現時点では一般の人の健康に大きな影響があるとは考えにくい。トルコ・イスタンブールにあるマルテペ大学の医学博士Fehime Aksungar氏らの研究によると、ラマダーンの断食後の血液検査では、いわゆる善玉と呼ばれる「HDLコレステロール」の割合が増えると報告されているものの、それが心筋梗塞などの発症に影響があるとまでは言えない。
◎新潮社フォーサイトの関連記事
・日本も巻き込まれる「粗悪医薬品」サプライチェーンの「危険度」
・「原発大国」フランスの「医療現場」と「災害対策」最前線
・「中期中絶」の壮絶な現場と「性教育」「アフターピル問題」