煙突と化した階段

 もう一つ、非常に問題だと思ったのは、火災の広がり方と犠牲者の分布に関する報道です。

 放火犯は、3階建てのビルの1階入り口付近で、バケツのようなものを使って液体を撒き、それに火をつけたと報道されています。

 南北に長い長方形の建物にはエレベーター、3階まで続く螺旋階段と、屋上まで続く階段の3つの上下方向の導線があったと報道されています。この建物には、屋外に非常階段などは取りつけられていなかったらしい。

 となると、この建物の1階で火災が起きると、建物の中にある階段を下りて屋外に出るか、階段を上がって屋上に出るか、2つの避難路しかないことになってしまう。

 そのことに、放火犯は意識的であった可能性があるのではないかと思われます。

 戦災を免れ迷路のような一本道が続く桃山の地形以上に、建物自身が避難路を持たず、入り口に放火されてしまうと、逃げ道がなくなる構造になっていたこと。

 さらに、階下で一度、ガソリンの爆燃が発生してしまうと、上の階にいた人は、何が起きたかわけが分からないまま、階下から黒煙が立ち上ってきてしまいますから、唯一の避難路であるはずの階段が、有毒物質や一酸化炭素を大量に含んだガスの煙突になってしまいます。

 吹き抜けになっていた螺旋階段は、勢いよくガソリンと炎が立ち上る、煙の熱気の通り道になったに違いありません。

 報道によれば、犠牲者は1階で2人、2階で11人、3階の階段付近で20人もの遺体が発見されたとのこと。

 この階段付近で多くの犠牲が発生したのは、建物ならびに放火位置の2つの条件から、ほとんど必然的な、しかし絶対にあってはならないリスクが現実化したと考えられます。

 容疑者も重体で、現在は麻酔によって意識不明と伝えられますが、真相解明と並行して、あるいはむしろ先立って、徹底した再発防止の取り組みがなされる必要があると言わねばなりません。