いわば、政府から“三行半”を突き付けられた格好の日銀だが、“はいそうですか”と簡単に出口戦略に踏み出すわけにいかないのは、前述した政府との合意文書の存在だけが理由にあるわけではない。

 そこには、「中央銀行の独立性とプライド」もさることながら、リフレ派で構成され“リフレ政策執行部”と揶揄される日銀の金融政策決定会合メンバー(審議委員など)の存在がある。2%の物価安定目標という“錦の御旗”を降ろし、金融緩和政策の出口戦略を開始すれば、それはリフレ派が自らの敗北を認めたことになるからだ。

 安倍首相の「金融政策は目的をすでに達成している」との発言から10日後の6月20日、日銀の金融政策決定会合後の記者会見で、黒田総裁は2%物価安定目標に向けた勢いが損なわれれば、「ちゅうちょなく追加緩和を検討していく」と強気の構えを見せた。

 その上で、政府との政策協調について黒田総裁は、「中央銀行は財政赤字の穴埋めをする財政ファイナンスではない」とクギを刺したうえで、「仮に政府が国債を増発して歳出を増やしても金利は上がらないようにしている」と述べ、財政支出の拡大による国債の増発に対応していく意向を示した。さらに、それが、「結果的に財政と金融政策のポリシーミックス(政策協調)になりうる」と、政府に寄り添う姿勢を強調した。まるで、“浮気癖のある亭主(安倍首相)”を“健気に支える妻(黒田総裁)”とでも言えそうな関係ではないか。

日銀に、トランプ大統領という「援軍」

 政府から冷たい態度をとられている日銀だが、思わぬ援軍が意外な方面から現れた。誰あろう、ドナルド・トランプ米国大統領だ。

 2020年の再選を目指しているトランプ大統領は、景気底上げのため「1%程度の利下げ」をFRB(連邦準備制度理事会)に求め、政治的圧力を強めている。得意のツイッターで連日ジェローム・パウエルFRB議長の個人攻撃も繰り返している。

 確かに、世界経済に陰りが見えていることも事実だ。日銀の金融政策決定会合の前日の6月19日、FOMC(米連邦公開市場委員会)は政策金利の据え置きを決定したが、その後の記者会見でパウエル議長は、「世界景気の力強さに懸念が生じている。多くのメンバーが金融緩和の必然性が高まっていると考えている」と述べ、利下げに転じる可能性を強く示唆した。

 実際、米国対中国の貿易戦争が大きく影響し、米国の主要経済指標には悪化が目立っている。自らが仕掛けた対中戦争でありながら、その結果で自国経済に陰りが見え始めるや、トランプ米大統領は7月のFOMCで金融緩和政策への転換を図るように繰り返し圧力をかけ、パウエル議長を理事に降格させる可能性までほのめかしている。

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