結局はその後、ツイート内容は当社の見解と異なる、といった社内メールや正式なリリースを出すに至る。リリースでは育児や介護など事情を抱える社員は他にも多数いるから特定の社員だけ特別扱いはしない、男性社員が育休を取得したことへの見せしめではない、転勤はむしろ余裕のあるスケジュールだった、という。そして転勤を延期してほしいという希望についても「希望を受け入れるとけじめなく着任が遅れると判断」して拒否し「当社の対応は適切」と締めくくっている。
(参照・当社元社員ご家族によるSNSへの書き込みについて|株式会社カネカ 2019/06/06 リリース

「育休明け直後に転勤は酷い」と炎上したことでカネカの評判は急落した。筆者が確認した限りでは、ヤフー!ニュースで「日経ビジネス」の記事が雑誌カテゴリの総合アクセスランキングで1位となった。「日経ビジネス」や「ハフィントンポスト」本体のサイトも含めれば、アクセス数は合計で数百万から1000万程度のPVを集めたのではないか。マイナスの宣伝効果に換算すれば数十億円に達しかねない。

 会社の対応からその後の広報対応まで、すべてが下手クソの一言に尽きる。一方で、会社側の対応を見ると、社員に辞めて欲しい事情でもあったのか、過剰なほどの強硬な態度は異様に見える。

 ツイートの通りであれば、退職が決まった後にも有給を消化させないなどおかしな対応も目に余る(これは違法行為にあたると指摘されている)。社員と企業間でトラブルでもあったのかと邪推したくなる状況だが、会社側として個人情報や業務に関する詳細な事情を詳しく出すことは無いだろう。今後真相が明らかになることは無いと思うが、炎上トラブルまで発展した時点で企業側の負けは確定している。

 最近の事例ではセブンイレブンの炎上を見ても分かるように、法的な正しさよりも消費者や従業員、取引先に対して「誠実かどうか」が炎上する・しないの境目となる。確かに転勤を命じること自体は決して違法ではなく、育児や介護の事情は配慮するようにという定めもあるが、これもサービス残業や最低賃金のように法律でキッチリと決められた決まりではない。

 しかしこのような対応が外部に漏れた時にどれだけマイナスの影響を与えるか、ネットやSNSを多少でも理解していれば素人でも分かる話だ。わざわざリリースで強調するような話でもない。

なぜ突然の転勤は発生するのか?

 カネカが酷いという話を一旦横に置けば、このような転勤は大企業では決して珍しくない。大手企業ならば入社の時点で転勤があることは社員も納得の上で入社する。内示から1カ月もかけず転勤させることや、小さい子どもがいたり家を買ったばかりだったりといった事情が考慮されないことも、表沙汰にならないだけでごく日常的に行われている。

 表沙汰にならない理由は、当たり前すぎてわざわざ報じる程のニュースバリューが無いからだ。筆者の父親も、兄が生まれた直後に東京から金沢に転勤があったと聞く。今回の件がニュースになった理由はツイッターで炎上という目新しさがあったからだ。