上原浩治は言葉ではなく行動で示す

 熊本地震復興支援のチャリティーオークションを行った際には、上原のマネジメントを担当する澤井芳信氏の理解と協力もあり、上原が「いの一番」にオークション出品用の実使用スパイクを送ってきてくれた。地震発生直後に行ったオンラインの緊急支援で、誰よりも早くツイッターでプロ野球ファンに寄付を呼び掛けてくれたのも上原だった。

 現在、BLFでは福岡ソフトバンクホークス千賀滉大のオレンジリボン運動(児童虐待防止)支援や、オリックス・バファローズ吉田正尚の開発途上国の子ども支援など、6人の現役プロ野球選手の慈善活動をサポートしているが、それらもすべて、上原が指を天に突き上げたあの瞬間から生まれたものと言っても過言ではない。

 グラウンドの外にあるスポーツの価値がこうして若い選手たちに受け継がれ、彼らの誰かがまたいつかアメリカの地で上原に負けない伝説になってくれることを楽しみに待つばかりだ。

 引退会見で上原本人が「現役時代、最も思い出深かったこと」の一つとして2013年のワールドチャンピオンのエピソードを話していたことが、個人的にはとても嬉しかった。

 私自身がそれをきっかけにNPOを立ち上げたこともあるが、あの瞬間は本人が感じている以上にボストンの人たちにとって印象的なものであり、上原という選手が大きな足跡をボストンに残したことを考えれば、日本のプロ野球にとっても強い意義を持つものだからだ。

 上原が引退を発表したまさにその日、私は偶然にもあの歴史的勝利の舞台となったフェンウェイ・パークにいた。試合前、ファンで賑わう球場内のレストランをミーティングで訪れたのだが、そこにも記者席の通路と同じように2013年の上原の写真が飾られていた。

 その前でふと足を止め、写真を指差しながら思い出を語るファンの姿があった。ああ、この人はこうやって、ずっとボストンのファンの間で語り継がれていく存在なのだな――そう思うと、日本の野球ファンとして、また、仕事で野球に関わる日本人として、誇りと感動を覚えずにはいられない。