1億5000万年前の恐竜の骨の化石からも「がん」が見つかっていることをご存じだろうか? 生物の進化とともに、長い時間をかけて「がん細胞」は増殖を続けてきた。そしていま、日本人のおよそ3人に1人ががんにかかるといわれている。そもそもなぜ人はがんになってしまうのか? いまひとつ知られていないその理由を、医師の長尾和宏氏が解説する。(JBpress)

※本稿は『抗がん剤が効く人、効かない人』(長尾和宏著、PHP新書)の一部を抜粋・再編集したものです。

遺伝子の「傷」によって高まるリスク

 私たちの体は、そもそも1個の受精卵が分裂を繰り返し、60兆個もの細胞になって身体ができあがるのです。そして60兆個もの細胞のなかには、あるところで分裂を終了して分裂しなくなる細胞と、分裂を繰り返す細胞があります。分裂を繰り返す細胞は、自身の持つDNAをコピーしながら分裂していきます。

 ところが、タバコや紫外線、化学物質、ストレス、バランスの悪い食事など、さまざまな要因でDNAが切れたり壊れたりなどすると、遺伝子に傷がついてしまう。

 DNAとは、「デオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid)」の略称で、細胞の核の中にあり、「二重らせん構造」といわれるように、2本の鎖が絡まり合ったような構造になっています。

 さらに、この2本の鎖は、「糖」、「リン酸」、および、アデニン、チミン、グアニン、シトシンという4種類の「塩基」で構成された「ヌクレオチド」という単位がズラズラと並んでできています。そして、この4種類の塩基がさまざまな順番で並ぶことで、たんぱく質の設計図が描かれているのです。

 たんぱく質は、私たちの身体を作り、生命活動に不可欠なもの。つまり、塩基の並び方が、生命の設計図を表しているということ。

 ごくごく簡単に言えば、長いDNAはいくつもの区画に分かれており、1つ1つの区画にたんぱく質の設計情報が描かれている。その1つ1つの「区画=設計図」が「遺伝子」と呼ばれています。