米国で進む「チュージングワイズリー」の動きをご存じか? 近年、医療分野において増加している「メリットよりもデメリットが上回る医療行為をリスト化する活動」のことを、そう呼ぶのだという。最前線をいく米国では、世界的に権威のある医学会などが率先してリスト化に協力している。2014年に250項目程度だったリストは、5年経った2019年現在、およそ300項目が追加され、計550項目ほどにまで増えた。医療経済ジャーナリストである室井一辰氏が、その背景を紹介する。(JBpress)
(※)本稿は『続 ムダな医療』(室井一辰著、日経BP社)の一部を抜粋・再編集したものです。
医療情報が氾濫するネットの海
私はかれこれ20年近く、医療分野の取材や記事執筆を重ねてきた。そうした経験もあって、身近な人から医療について相談を受けることも多い。病気になると大抵の人はまず、インターネットを使って医学的な知識を深めようとするはずだ。
いま、インターネット上にはあらゆる情報があふれている。だが、玉石混交の膨大な情報の海の中から、正しいものを見つけるのは至難の業だ。結局は、インターネットの海を漂うことに疲れ果て、日々取材を重ねる私のところに相談に来る方も多い。
相談に来る人たちの声を聞くにつけ、インターネット上にはなぜ有益な医療情報が少ないのかと、問題意識を募らせている。医療という「大海」の中には、受けないほうがいいという治療もある。それを一つの海図として知っておくことが、誰にとってもメリットになると私は考えている。
2013年、まったく別の情報収集をしているときに、私は「チュージングワイズリー(Choosing Wisely)」の存在を知った。直訳すれば「賢く選ぼう」という活動。この小さかった活動が、いまでは国際的に広がりを見せている。
残念ながら日本ではまだ、チュージングワイズリーについてあまり知られていない。だが米国では、医師のほぼ半数がその存在を認識している。それほど医療業界に浸透し、影響力を持つ存在になってきているのだ。チュージングワイズリー、すなわち「ムダな医療」を見極めて排除しようという動きは、早晩日本にもやってくることは間違いない。