トランプ政権のイラン敵視政策は、トランプ大統領自身の考えが基本にある。トランプ大統領の国内での中心的支持母体の1つはキリスト教右派であり、さらにトランプ大統領は娘婿のクシュナー上級顧問を通じてイスラエルのネタニヤフ首相とも非常に近い。そのため、2016年の大統領選中からイランに対しては厳しい立場をとっている。その姿勢は、2017年1月に政権に就いてからも変わらない。2018年4月にはイランに厳しい立場のボルトン元国連大使を国家安全保障担当大統領補佐官に抜擢。同年の翌5月には、イランとの核合意からも離脱した。今回の外国テロ組織への指定は、その流れにある。
イランとの核合意では核武装完成を一歩手前で阻止しており、トランプ政権の合意離脱声明を経ても、現時点ではいまだ合意は崩壊には至っていない。ただ、今回の外国テロ組織への指定がどういう作用を及ぼすかは不明だ。冒頭に紹介した河野外相記者会見での記者質問にあったように、単にイランとの緊張を招くだけとの批判もある。
しかし、イランは近年、特にイラクとシリアにおいて、自分たちの影響力拡大を狙って軍事介入を急速に拡大しており、明確に中東地域の安全・安定の脅威になってきていることは事実である。その担い手こそ、革命防衛隊の特殊部隊「クドス部隊」(クッズ部隊との表記もある)であり、彼らの行動を黙認することは、きわめて危険である。
トランプ大統領は今回の外国テロ組織指定について、「イランがテロ支援国家だというだけでなく、革命防衛隊が国政の手段として積極的に資金調達し、テロを助長していることを認識してのことだ」と言及している。トランプ大統領の対外政策は全般的に緻密な戦略に立脚していない場当たり的なものが多いのも事実だが、このコメントに関するかぎりにおいては、トランプ大統領の認識は正しい。
実際、イランは1979年のイスラム革命以来、「革命の輸出」を掲げて紛争の種を拡散し続けており、きわめて危険な国家であり続けている。
革命防衛隊が1軍、国軍が2軍
イランは選挙で大統領が選ばれる国だが、そんな政府の上位に、保守派のイスラム聖職者が絶対的な権力を握って君臨している。その頂点がアリ・ハメネイ最高指導者だ。ロウハニ大統領もハメネイ最高指導者に逆らうことはできない。
ハメネイ最高指導者の権力の源泉はいくつかあるが、最高指導者直属の革命防衛隊は、その最大のものだ。革命防衛隊がイラン国内で最大の戦力を持っているからである。革命防衛隊はもはやイラン社会に浸透しており、とくに非難の声が日常的に国内で聞こえるわけではないが、政治家やメディアも含め、すべての国民にとって批判は許されない恐ろしい存在となっている。イランでは国内政治に関して比較的活発な論争が行われているが、革命防衛隊の活動はその枠外にある。
革命防衛隊の重要な任務は、1つは国内でのハメネイ体制の維持であり、もう1つが国外でのイランの勢力圏の拡大である。前者においては、たとえば国内で民主化運動が発生した際には、革命防衛隊傘下の民兵組織「バシージ」(動員隊)が弾圧に投入されている。後者においては、クドス部隊が盛んに秘密工作を行っている。イスラム革命が起きてからこの40年間、イランは他国と比べても突出して国家テロを続けてきているが、革命防衛隊はそのテロ活動のまさに中枢の存在だ。
世界のほとんどの国に軍隊は存在する。外敵からの侵略から国民を守る軍隊であれば問題はないのだが、この「自国での専制的独裁体制の守護者」と「対外的な勢力拡大のための不正な謀略活動の常習者」という2点が際立っている。