可愛いわが子や孫が、突然、重篤な状況に陥いる・・・、普通であればその状況は、身を切られるほど辛いことです。子どもを守ってやれなかった自分を責め、苦しむ人もいることでしょう。にもかかわらず、ふと気づけば、そんな自分たちが「虐待をした張本人」として疑われているのです。

 信じられないかもしれませんが、今の日本では、日々の子育てのなかで、ほんのわずか目を離した瞬間にケガをしてしまった、また、お昼寝中に突然容体が急変してしまったといった場合、いくら保護者が病院で事実を説明しても、まず信じてはもらえないのです。それまでの発育状態がどれだけ良くても、ほかに傷ひとつなくても、いざ赤ちゃんの脳に出血などの異常が見つかると、即座に虐待を疑われ、「被疑者」として扱われることがあるのです。

 その根拠となっているのは、『揺さぶられっ子症候群』という診断です。

「揺さぶられっ子症候群=虐待」の怪しい科学的根拠

 厚労省のサイトでは、赤ちゃんを激しく揺さぶる様子が動画とともに解説されており、英語では「Shaken Baby Syndrome(シェイクン・ベイビー・シンドローム)」、頭文字をとって「SBS(エスビーエス)」と呼ばれています。

 厚労省の助成金で作成されたマニュアルによると、赤ちゃんの頭部に、

(1)硬膜下血腫/頭蓋骨の内側にある硬膜内で出血し、血の固まりが脳を圧迫している状態
(2)眼底出血(網膜出血)/網膜の血管が破れて出血している状態
(3)脳浮腫/頭部外傷や腫瘍によって、脳の組織内に水分が異常にたまった状態

 という3つの症状があれば、『揺さぶられっ子症候群(SBS)』=虐待の可能性が高いと診断されるようです。マニュアルによれば、つかまり立ちのように低い位置から転んだ程度では、脳に出血は起こらないとされているのです。

 しかし、取材をする中で、私は国内外の脳神経外科医たちから、現在の日本における『揺さぶられっ子症候群(SBS)』の診断のあり方について、厳しい批判の声を多数聞いてきました。彼らは豊富な臨床経験から、「つかまり立ちからの転倒事故でも硬膜下血腫が起きることはある」とはっきり述べており、機械的に「虐待」と判断する診断のあり方に警鐘を鳴らしています。