デリーの街の「壁画」

 大ヒット上映が続く『ボヘミアン・ラプソディ』(2018)。

 1970年代半ばから80年代にかけ、世界的人気を誇った英国のロックバンド、クイーンのリードヴォーカル、フレディ・マーキュリーの物語は、公開から5か月余りを過ぎ、興行収入はすでに歴代トップ20入り。

 多くが、アニメやテレビのスピンオフ、娯楽大作であるランク入り作品のなか、趣を異にする一作は、リアルタイムでクイーンを聴いてきた50代、60代にとっては、曲とリンクした当時の自分の記憶を呼び覚ますものでもある。

 その一方で、クイーンの存在さえ知らなかった人々も、評判を聞きつけ劇場に足を運んでいる。

 そこには、今の時代だからこその理由もあることを、フレディを演じ今年のアカデミー賞主演男優賞を獲得したラミ・マレックが授賞式のスピーチで語っている。

 「我々は、ゲイで、移民で、悪びれず自分らしく生きた男の映画をつくりました。今夜、彼を、その物語を、称えることできたのも、そんな物語を我々が待ち焦がれていたからです」

 さらにつけ加えれば、フレディはAIDSでその短い生涯を閉じている。

 LGBT、AIDSへの差別意識は、リアルタイムにクイーンを聴いてきた世代が、実際、肌で感じてきたこと。

 その一方で、当時日本人が実感しにくかった、移民、「異教徒」への歪んだ感情は、世のグローバル化、フラット化が急激に進む今、改めて露わとなっている。

 マレックは、自らの生い立ちにも重ね合わせる。

 「私はエジプトからの移民の子、「First Generation American」です。私の物語の一部が今綴られているのです」

 前回コラムで紹介したスパイク・リー監督のスピーチ同様、いまの世界、内向きなトランプ時代への強いメッセージでもある。

 映画は、1985年7月、「LIVE AID」での圧倒的パフォーマンスがクライマックスとなる。

 84か国で同時テレビ中継され、日本ではフジテレビが「THE・地球・CONCERT LIVE AID」と銘打ち、逸見政孝と南こうせつが進行役を務め、多くのスタジオゲストを迎えながら、夜を徹し放映されたライブコンサートである。

(ただし日本での中継開始は1時間遅れだったから、完全な生中継ではなかったようだ)