世代や出自とは関係なく、芝園団地に住んでいる人々を結びつけることで、団地という無機質な集合体が“生きて”くるのではないか。立場の異なる人々を「つなぐ」ために必要な「かけはし」を自分たちが担おう。そういった発想で生まれた組織である。
けっしてトップダウンでおこなわれる街づくりではない。不完全で、行き当たりばったりの知恵と情熱だけで取り組んでいる。とくに学生たちは資力もない。すべての住民に理解されているわけでもなければ、すぐに結果を獲得できるわけでもない。手がけたイベントで盛り上がるのは、一瞬のことに過ぎないという見方もある。だが「つなぐ」ことの重要性を、東京大学大学院生の圓山王国(まるやまおうこく)らメンバーたちは確信している。代表である圓山は言う。
「多文化交流の様々なプログラムを続けていくなかで、少なくとも芝園団地に新しい風景をつくり上げることには成功したと思うのです。そして“多文化共生”と“団地の環境を守ること”は、対立するものではないんだという確信だけは、得ることができました」
評価された「つなぐ」活動
圓山の言葉は、日本中の団地が抱える問題への解答ではないだろうか。各地の団地をまわっていると、優先すべきは「共生」か「環境」か、といった議論を耳にする機会が少なくない。その2つを同時に進めることは矛盾するのだろうか。芝園団地に住むある中国人は、私の取材に対して次のように答えている。
「日本人の知人が増えたことで、ゴミの出し方も知った。同時に我々中国人を怖がっている人に対して、中国人は怖い存在ではない、当たり前の人間であることも知ってもらえた」
相手の立場になりきって、心情をすべて理解することが大事なのではない。同じ場所に住んでいる。同じ社会でともに生きている。違いがあっても隣人として暮らしている。必要なのはそうした意識だけでよいのだ。「つなぐ」ために奔走する人々を見てきたなかで、私はそう考えるようになった。住民同士が、その違いと共生の意味を知ったとき団地は新しい風景を生み出すに違いない。
芝園団地自治会は2018年初め、国際交流基金が国際交流に貢献した団体などに贈る「地球市民賞」と、埼玉県の「埼玉グローバル賞(地域国際化分野)」に相次いで選ばれた。日本人住民と外国人住民の交流の場を積極的に設け、共生に努めている点が高く評価されたのだった。