「合意なき離脱」か「離脱延期」か、終わりが見えないブレグジットの混乱

英ロンドンで、議会の前に掲げられたEUの旗と英国旗の前を通り過ぎる男性(2019年3月4日撮影)。(c)Tolga Akmen / AFP〔AFPBB News

 いよいよ英国の欧州連合(EU)からの離脱が目前となってきた。EUからの離脱は、英国の国際的な地位を低下させると懸念されている。

 そうしたなか、一部の意見ではあるが、英国の国際的地位低下を防ぐ手段の一つとして、米国出身のメーガン妃の夫であるヘンリー王子を次の米国大使として任命すべきだとの意見さえ出てきた。

 英国のEU離脱に関する話題の中心は、離脱後の経済問題、貿易、景気の動向、国境管理などである。

 例えば、今年に入ってから英国国内で話題となっているのは、コードレス掃除機で有名な英国のダイソンが本社をシンガポールに移転するといった発表や、ホンダが英国南部スウィンドンにある工場を2021年に閉鎖すると発表したことなどだ。

 両社とも、それぞれの決定に関しては、英国のEU離脱とは関係がないとしているが、専門家は英国のEU離脱の影響が出始めていると見る。

 英国のEU離脱は、ヨーロッパ大陸への玄関口であった英国が扉を閉めることになり、投資先としての魅力が落ちるという見方は間違いではない。

 このように英国のEU離脱に関しては経済問題に関する報道が多く、一般国民も実際に今後の生活に直接影響を与える経済に関連した問題を注視している。

 景気動向、経済活動や国境管理などの直近の問題がより重要なため、注目されることはないが長期的に見れば、英国のEU離脱とは欧州の安全保障を巡る問題でもある。

 英国のEU離脱と欧州の安全保障は全く関連がないように見えるかもしれないが、欧州の政治情勢の不安定化はこれを敵視するロシアにとっては好都合である。

 また、歴史的にも英国が欧州の安全保障に貢献してきたことを忘れてはならない。

 例えば、欧州の安全保障の専門家であるベアトリス・ホイザーに言わせれば、英国のEU離脱とは、本質的には経済上の問題ではなく安全保障の問題なのである。本稿では、この忘れさられた安全保障という観点から英国のEU離脱問題を考えてみたい。