胸を撫でおろした居残り組
丹東で長く、北朝鮮への観光ビジネスを行っている中国人が証言する。
「中国と北朝鮮は、1400㎞もの国境を接していて、日々交流しているのだから、当然国境付近の北朝鮮人は知っている。われわれも中国のSNS上に載っている話を、北朝鮮人たちにしている。彼らは裏では、『3日もかけてハノイまで列車で往復して、いったい何をやっているんだ?』と呆れ顔だ。
そもそもいまの北朝鮮人は、父親の故・金正日総書記に抱いていたような敬愛の念を、金正恩委員長に対しては抱いていない。ただ従え、尊敬しろと命じられて、面従腹背で頭を下げているだけだ。
丹東で北朝鮮ビジネスをやっているわれわれは、今回の米朝会談後に、対北朝鮮ビジネスが本格的に復活できると期待していただけにガッカリだ。だが、私たち以上にショックを受けているのが、当の北朝鮮人たちだ。あと一年もいまの経済制裁が続けば、北朝鮮は潰れてしまうよ」
これから北朝鮮で起こってくるであろうことが、二つある。
一つ目は、今回の「ハノイの決裂」に対する朝鮮労働党内部での「総括」だ。すなわち、誰を「生贄(いけにえ)の羊」にし、責任をなすりつけて粛清するかということだ。今回、ここまで「最高権威」(金正恩委員長)に国際的な恥をかかせてしまったのだから、「プライドの国」と言われる北朝鮮で、金委員長の側近たちが無事で済むはずがない。
最も危険なのは、『労働新聞』などで、金正恩委員長に同行してハノイ入りしたと報じられた「側近11人組」である。北朝鮮メディアで紹介されている順に名を挙げると、朝鮮労働党中央委員会副委員長の金英哲、李洙墉、金平海、呉秀容、李容浩・外相、努光鉄・人民武力相、朝鮮労働党中央委員会第一副部長の金与正、李英植、金成男、崔善姫・外務副大臣、朝鮮労働党江原道委員会委員長・朴正男である。
少なくともこのうち何人かが、血祭りに上げられることが予想される。「無事」が保証されているのは、金正恩委員長の妹である金与正と、金委員長がスイスで過ごした少年時代に父親代わりとなった李洙墉くらいのものだ。李洙墉は今回、世界遺産のハロン湾の観光視察をやっていたくらいなので、アメリカとの交渉からは外されており、直接的な責任は問われないだろう。だが残り9人の幹部は、いつ誰が無惨な粛清に遭っても不思議ではない。