映画『バイス』のチェイニー役、クリスチャン・ベール

ブッシュ親子を操ったチェイニー副大統領

 ディック・チェイニー元副大統領の半生を描いたアダム・マッケイ監督(共同制作者ブラッド・ビット)の政治サスペンス映画『バイス』(原題Vice)*1

 作品賞、監督賞、男女助演賞など6部門でノミネートされていたが、残念ながら授賞したのは1部門(メイクアップ&ヘアスタイリング*2部門)だけだった。

*1=Viceとは代理、副、の意味(例えばVice president=VP、副大統領)のほか、人格上の邪悪、悪徳という意味がある。チェイニー氏の副大統領と悪徳とを重ね合わせたタイトルになっている。

*2=チェイニー役のクリスチャン・ベールは21才から75才までのチェイニーになり切るために体重の増やしたり、髪を剃毛した。メイクアップはハリウッド屈指のメイクアップアーティストのグレッグ・キャノム氏が担当した。

 前評判もよく、リベラル派評論家たちはこぞって絶賛していたが、実在の人物を実名で扱った生々しい政治ドラマだけにアカデミー賞審査員たちも作品賞を出すにはちょっと躊躇したのだろう。

作品賞に『グリーンブック』第91回アカデミー賞

『バイス』は第91回アカデミー賞作品賞にノミネートされたが受賞できなかった。写真は、作品賞に選ばれた『グリーンブック』のピーター・ファレリー監督(2019年2月24日撮影)。(c)VALERIE MACON / AFP 〔AFPBB News

 主人公のチェイニー氏は、ご存知、ジョージ・W・ブッシュ第43代大統領の下で「史上最大の副大統領」と言われた。今なお毀誉褒貶の激しい政治家。ドナルド・トランプ大統領を支持する者の中には今でもチェイニー信奉者がいる。

あくなき権力欲はウォーターゲートのニクソン以上

 チェイニー氏ほどカネと権力を追い求めた政治家はいない。それでいて弾劾されもしなければ、政界を追放されたわけでもない。

 リチャード・ニクソン第37代大統領のように失脚し、政界を去ったのち「悪の権化」のように扱われているわけでもない。

 今年1月30日、78才の誕生日を迎えたが、9年前持病の心臓病を直すために心臓に補助ポンプを埋め込む手術をしてから通常の老後生活を送っている。功成り名遂げた余生を送っている。

 根っからのネオコン(新保守主義者)としてトランプ大統領の政治を支持している(移民政策を除いては)。