ルーマニアに配備されたイージス・アショア(資料写真、出所:米海軍)

 日本政府が米国から購入する地上型の弾道ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」。その高額な導入費用や効果に対して、批判の声が少なくない。だが、元幹部自衛官で小説家・軍事評論家の数多久遠(あまた・くおん)氏は、「イージス・アショアの設置は極めて妥当」と見る。イージス・アショア導入の本当の意義を数多氏が解説する。(JBpress)

誤解されているイージス・アショア導入の効果と価値

 1月29日、アメリカ国務省がイージス・アショアの日本への売却を承認し、日本でのイージス・アショア設置が実際に動き始めました。

 このイージス・アショア設置に対しては、革新系論者が強く反対を唱えるだけでなく、一部保守論者からも疑問が呈されています。しかし、どちらもイージス・アショア、および他の手段がどんなものであり、どのような効果・価値があるのか誤解あるいは曲解したまま論じられているように見受けられます。

 そこで本稿では、単なるスペックや価格だけでなく、運用面だけでなく政治的なものも含め、イージス・アショア導入の意義を検証してみたいと思います。

 本稿の内容は以下のとおりです。やや長文となりますが、軍事に詳しくない方にも理解していただけるようできるだけ分かりやすく書いてみましたので、ぜひ最後までお読みください。

【1】イージス・アショア導入の価値とは?

 (1)保有ミサイルの最大活用が可能、海上イージス艦の本来の任務が遂行可能
 (2)「THAAD」という選択肢が適切ではない理由
 (3)優れているコストパフォーマンス

【2】日本導入バージョンは性能が違うのか?

【3】ロシアの反発にはどう対応すべきか?

【4】配備地が秋田と山口なのはアメリカのためなのか?

【5】結論「防衛省・自衛隊の決定は極めて妥当」

【1】イージス・アショア導入の価値とは?

(1)保有ミサイルの最大活用が可能、海上イージス艦の本来の任務が遂行可能

 本来、「海上イージス」などという言い方はないのですが、便宜的に本来のイージス艦による運用をこのように表現します。

 イージス・アショアは、基本的にイージス艦の弾道ミサイル防衛機能を陸上で運用できるようにした、言わば機能限定版です。そう聞くと、おそらく多くの人が、機能を限定することでコストを下げたシステムであり、コストパフォーマンスに優れているのだと想像するでしょう。

 もちろん、それは間違いではありませんが、もっと大きな価値が別にあります。それは弾道ミサイル防衛任務の継続性とイージス艦による本来の任務遂行です。

 海上イージスは艦艇であるため、活動を続けるためには、港で物資の補給や乗員の休養を行う必要があります。そのため、弾道ミサイル防衛の任に就くとしても、一定期間ごとに、弾道ミサイル防衛に適切な位置から離れて帰港しなければなりません。

 継続して弾道ミサイル防衛を行う場合は、交代の艦が任務に就いている艦が哨戒する海域に到着するまで、任務に就いている艦が遊弋(ゆうよく:艦船が海上を動き回って敵に備えること)を続ける必要があります。