キャンプで中田翔を見て「出会った」と思った

 それは、毎年どのチームにもいるというものではなく、むしろ本当の意味でのエースと四番は、そうそう見当たらない。裏を返せば、強いチームにはエースと四番がいる、ということもできる。

 その野村さんの言葉が、強く印象に残っていたせいかもしれない。1年目のキャンプで中田翔の打撃練習を見たとき、まさしく「出会った」と思った。もちろん一野球ファンとして、一取材者として、彼のことは高校時代から何度も見てきたが、これから一緒に戦う同じチームの選手としてはじめて見たとき、その印象は強烈だった。当時の中田は5年目、23歳になる年だった。
 
 2年目、フレッシュオールスターゲームでMVPを獲得し、イースタン・リーグ二冠王に輝いたが、一軍での活躍が目立ち始めたのは、3年目の夏以降。4年目にようやくレギュラー定着を果たし、リーグ3位のホームラン18本を放つなど、ちょうど大器の片鱗を見せ始めた時期だった。
 
 バッティングケージの中から、軽々と打球をフェンスの向こうに運んでいくさまは圧巻で、この若者はモノが違うと感じずにはいられなかった。あれは、努力すれば誰にでも身に付くという類のものではない。比べるのもおこがましいが、たとえ現役時代の自分が彼の5倍やっても10倍やっても、土台無理な話だ。ボールを遠くに飛ばす能力は、きっと天賦の才なのだ。

「ああ、これがあの野村さんでも作れなかったという、真の四番なんだ」

 そのとき、強く思った。

「この才能を預かる以上、中田翔には球界を代表する四番になってもらわなくては困る。そうすることが、自分に課せられた使命なのではないか」と。

 強いファイターズを作るためにも、ひいては日本球界の未来のためにも。
(『稚心を去る』栗山英樹・著より再構成)
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