大久保秀昭(おおくぼひであき)監督。同大OBで近鉄バファローズなどで捕手としてプレー。エネオス野球部監督として多くのプロ選手を育てる。(撮影:花井智子)

 慶應義塾大学硬式野球部は、同校OBで、高橋由伸氏の同期でもある林卓史助監督就任以降、徐々に「地力」を発揮し始める。

 スポーツ推薦のない同部。才能豊かな選手が集まる、他大学とわたり合うために導入したのが「データ」活用だった。ラプソードというトラッキングシステムは、投打に大きな結果を出す。そしてまた、データ一辺倒にならない――「データ」に頼るだけではないチーム作りを、アマ野球界の名将・大久保秀昭監督とともに目指している。(後編/スポーツライター、田中周治)

【前編:球速10キロ以上アップも、慶応大野球部復活のワケ​

補欠だった選手が一躍リーグを代表する選手に

 140キロを超える球を投げ、コントロールも良くなっていく・・・ラプソード(トラッキングシステム)を導入以降、そんな好循環を見て、今年8月、慶應義塾大学野球部は、バッティング用のラプソードも導入した。主に打球速度を計測し、ブルペン練習と同じように、1球ごとに打者に伝えるようにした。

 するといきなり驚くべき効果が出る。

「計測すると、3年の中村健人の打球速度が一番速かったんですね。彼は春にベンチを外れることもあるような選手だったんですけど・・・。(測定を開始し始めて初となる)秋季リーグでは、リーグ最多の5本塁打を記録した。やはり、打球速度と打率・本塁打数には、ある程度相関関係があるんだな、と実感しています」

 それまで1本もホームランを打ったことがない中村が、一気にその才能を開花させたのだ。いったいどのようにデータを使っているのか・・・。

 計測した打球速度は、マネージャーたちがランキング形式にして毎日、発表しているそうだ。秋季リーグまで副将を務めた三枝遼太郎捕手(4年)がその効果を説明する。

「自分は元々、打球速度が速くなかったんです。よく、バット全体を使ってスイングしてしまっていると注意を受けていました。自分の打球速度を意識しながら練習することで、バットのヘッドを走らせる感覚で打てたときは、打球速度が速くなることが、ようやく分かりかけてきたところです。4年生なので、正直、もう少し以前からこういう練習ができていれば・・・という思いはあります。でも、打球速度を計測していなかったら、スイングを変えてみようとさえ思わなかったでしょう。たまに芯を食えば、打球が飛ぶことは飛んでいたわけですから。意味はあったと思います」

秋季リーグまで副将を務めた三枝遼太郎捕手。(撮影:花井智子)

 データによって感覚だけではない「いいフォーム」「悪いフォーム」とその結果が理解できるようになる。また、データという数字は明確な目標になるため、モチベーションが上がる・・・。

 こうして、今まで見つからなかった才能が花開いていったわけだ。