みなさんは九州新幹線のCMを知っているだろうか。2011年にカンヌ国際広告祭・金賞を受賞した日本のテレビCMの歴史に残る名作である。
2011年3月12日、博多駅と鹿児島中央駅を結ぶ九州新幹線が全線開業した。九州旅客鉄道(JR九州)は開業を告知するテレビCMを制作し、3月9日から放映した。しかし、3月11日に東日本大震災が発生したため、同日の夕方に放映中止となった。そのため、放映されたのがたった3日間だけという幻のCMになってしまった。
このCMは現在ネット上の動画サイトで見ることができる。試験運転する新幹線に向かって手を振る一般市民の姿が次々に映し出されるという内容だが、筆者はこのCMを見ると、新幹線が鹿児島中央駅を発車した瞬間からなぜか目頭が熱くなってしまう。YouTubeのコメント欄も「泣ける」「感動した」という声があふれている(「祝!九州」などのキーワードで検索してご覧いただきたい)。
沿線の光景を見て目を潤ませたのは、CMの視聴者だけではない。JR九州会長・唐池恒二氏の著書『感動経営――世界一の豪華列車「ななつ星」トップが明かす49の心得』(ダイヤモンド社)によると、撮影スタッフも、その新幹線に同乗した唐池氏自身も、ちぎれんばかりに手を振ってくれる人たちを見て感動で涙をボロボロ流したという。
観光地がリピーターを増やすためには?
「感動」は、JR九州の経営を形作る重要なキーワードだ。唐池氏は『感動経営』で、「経営は、人に感動を与えるためにある。経営は感動することから始まる」と訴える。経営にはなぜ感動が大切なのか、感動はどのようにして生まれるのか。
ちょうど今、JR九州はアジアマーケット拡大の真っ最中である。2018年7月には、中国人訪日観光客の増加に向けて、中国のアリババグループと提携した。アリババ側は中国人向け旅行サイト「Fliggy(フリギー)」で九州の観光地、温泉や食を集中的に紹介。九州観光のツアー商品を用意し、九州に送客する。JR九州側はツアー向けの特別列車を用意したり、アリペイ(アリババグループが提供するモバイル決済サービス)の利用環境を整備する。
九州のインバウンドの動向、そして外国人旅行客に感動してもらう方法から唐池氏に尋ねてみた。