中国経済は12月に入っても低迷が続いているが、12月16日、中国のマクロ経済学者は人民大学で行われた改革開放40周年経済フォーラムで「中国経済はマイナス成長に陥った可能性がある」という衝撃的な発言を行った。中国の足下の原油需要は堅調に推移しているが、今後一気に悪化する可能性がある。
世界第3位の原油需要国であるインドでも変調の兆しが出ている。昨年11月の原油輸入量は前年比11.4%減となった。
実体経済のマイナスの影響に加え、金融面からも原油価格に対する下押し圧力が継続している。ヘッジファンドによるWTI原油先物の買い越し幅が縮小が3カ月以上にわたって続いているが、その要因は米FRBの量的金融引き締めである。FRBのバランスシートは最大時に4兆2500億ドルに達していたが、「金融市場への関与を弱めるべき」との政治的な要請を受けて、過去1年間でバランスシートを3兆9000億ドルにまで縮小した(12月20日付ロイター)。これにより市場から累計で3500億ドルに及ぶリスクマネーが吸い上げられたことから、原油を除く世界の商品価格が下落。1人気を吐いていた原油価格も、昨年11月のイランファクターが拍子抜けとなったことで11月以降大幅な下落に見舞われた。
FRBは12月19日の連邦公開市場委員会(FOMC)で、今後も引き続き毎月500億ドルのペースでバランスシートを縮小し続ける方針を堅持している。このことから、需給面に大きなインパクトを与える事案が発生しない限り、原油価格は今後下がることはあっても上がる可能性は低い。
経済危機でムハンマド皇太子が株価操作?
筆者は今年前半に原油価格は1バレル=40ドル(北海ブレントなら50ドル)割れする可能性が高いとみているが、そうなれば中東・アフリカ地域の産油国への打撃は計り知れない。
フランスのマクロン政権に対する「黄色いジャケット運動」に刺激されてチュニジアやレバノンで抗議活動が起きている。スーダンやモロッコ、リビア、イラク、ヨルダン、アルジェリア、エジプトでも経済状態の悪化に対する抗議運動が広まっており、中東メディアは「時あたかも2011年のアラブの春が広がった季節と同じである」と報じている。
当時、サウジアラビアをはじめとする湾岸産油国は、潤沢な原油収入を財源にして公務員や軍人の給料を2倍にするなどの「大判振る舞い」を行ったことで、アラブの春の自国への波及をなんとか食い止めた。
サウジアラビアの今年の予算は前年比7.3%増の約33兆円と史上最大である。昨年1月に導入した5%の付加価値税導入に伴う負担を緩和するための公務員や軍人への特別手当の支払いを今年も続ける方針などから、当初予算ベースで多額の赤字が見込まれており、320億ドル規模の国債を発行する予定である(12月20日付ブルームバーグ)。歳入全体の3分の2以上を占める原油の想定価格は1バレル=80ドルであることから、ブレント価格が50ドル割れしたら、今年の予算執行は困難になってしまうだろう。
海外からの投資が冷え込み、800万人規模とされる外国人労働者のうち100万人以上が給料未払いなどを理由にサウジアラビアを出国しており、原油関連事業以外は目も当てられない状況となっている。