あれほどの不動産バブルが生じているのに、中国には固定資産税も相続税もない。所得税を支払っているのは、全人口の2%にすぎない。税収の多くを国営企業の法人税から得ている。

 国営企業の多くは電気や通信など生活基盤に関連する事業を行っている。それらが支払う税金は、電気や通信の料金に上乗せされている。そうであれば、それは消費税と変わらない。つまり、中国の税制は逆進性が高い。富裕層ほど税率が低い。

 税による所得の再分配を行っても、なお多くの国で格差が問題になっているが、中国は税による所得の再配分すら行っていない。それは、笑い話のように聞こえるが、共産党の有力な支持基盤が都市に住む富裕層やアッパーミドルであるからだ。

 習近平政権は庶民の不満をそらすために、「中国の夢」などといった対外膨張政策を打ち出した。そして、調子に乗って次々と政策を打ち出していたら、米国の逆鱗に触れてしまった。それが、ことの真相だろう。

習近平政権は「中国の夢」を打ち出し、中国の明るい未来を訴えている。上海の繁華街に貼られたポスター

米国が貿易戦争を仕掛ける理由

 習近平政権は貿易戦争に対して明確な戦争目的や戦略を持っていない。そのことは、昨今のオタオタぶりを見てもよく分かる。

 ちょっと知識のある中国人は、習近平の政策が米国との深刻な対立を招いてしまったことをよく理解している。2018年の夏あたりからは、中国共産党の長老までもが習近平の資質に疑問を感じ始めるようになった。夜郎自大的な政策の立案に関わった政治局常務委員の王滬寧は事実上の失脚状態にあるとされる。